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第3回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。
平成17年度も多くの推薦がありましたが、所内の各部門主任・施設長から構成される選考委員会による審議の結果、次の3名の方が第3回の受賞者と決定しました。なお授賞式は3月22日午後、物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


【受賞者】

第3回ISSP学術奨励賞
渡辺 真仁
 (物性理論研究部門 助手)
強相関電子系は電子が互いのクーロン相互作用のために激しくせめぎあい、新奇な相や相間の競合によるドラマチックな応答を生み出す舞台を提供していますが、信頼できる理論にもとづく機構解明には困難が大きいことが知られています。その中で、近似をできるだけ排除した数値的な手法による理論模型の解析は今まで大きな役割を果たしてきましたが、渡辺氏はこの分野で成果をあげました。渡辺氏は経路積分繰り込み群法の中に大正準分布による解析ができるようなアルゴリズムをはじめて組み込むことによって、電子濃度と相互作用のパラメタ空間で2次元ハバード模型の金属と絶縁体の定量的な相境界と転移の性格を求めることに成功しました。これはフィリング制御型とバンド幅制御型のモット転移を同じ土俵の上で統一的に理解する出発点となるものです。また絶縁相の中に生じる量子スピン液体相が特異な性質を持ち、単純な対称性の破れがないことを数値的に示しました。最近実験的に見出されているスピン液体の本性を解明する上で理論によるさきがけとなる役割を果たしています。このように渡辺氏は、強相関電子系のための数値的な手法の開発とその適用に対する重要な貢献が評価されました。

第3回ISSP学術奨励賞
米沢 茂樹
 (物質設計評価施設 博士課程3年(理・化))
「β型パイロクロア酸化物超伝導体の発見」
米澤茂樹氏は博士課程の3年間を通して新しいパイロクロア酸化物の探索を行ってきました。その結果、一般組成式AOs2O6を有する3つのオスミウム酸化物KOs2O6、RbOs2O6、CsOs2O6を発見しました。これらは基本的に遷移金属原子のパイロクロア格子を有する酸化物ですが、通常の(α型)パイロクロア酸化物A2B2O7と比較して組成も結晶構造も異なるため、新たにβ型と名付けました。さらに重要なことは、β型パイロクロア酸化物がそれぞれ転移温度9.6K、6.3K、3.3Kの超伝導体であることを発見したことです。これまでに知られていたα型パイロクロア酸化物超伝導体Cd2Re2O7の転移温度1.0Kと比べて、1桁近く転移温度が上昇したことになり、何らかの新しい超伝導機構が働いているものと考えられています。さらに最近ではアルカリ金属原子のラットリング現象が見つかり、その相転移や超伝導との関わりなど興味深いテーマとなっています。新物質探索は地道な仕事であり、忍耐力とある種の「勘」を必要とします。過去の膨大な研究において見出されなかった物質に巡り会える機会は極めて希であり、米澤氏の発見は全く新しい物質群を見つけたという意味で固体化学的に高く評価されます。また、超伝導とラットリングなど物性物理学にとって面白い分野を切り開きつつある点が高く評価され、ISSP学術奨励賞受賞となりました。

第3回ISSP柏賞
森 多美子
 (極限環境物性研究部門 助手)
森さんは、30年以上にわたり物性研究所の軌道放射部門や極限環境物性部門で研究室スタッフとして仕事をしてこられました。その間日常の業務以外に、 さまざまな活動を通して、物性研における職員、学生の研究、労働環境をより快適なものにするために大きな貢献をされてきました。ひとつには、個人的にカ ウンセリングの勉強をされて、それで得た専門的知識を生かしながら、多様な悩み事の相談相手として、所属を問わず多くの職員学生の心のケアを続けてこられました。また柏移転後は、柏キャンパスに明るい職場、研究環境を作り出すためにさまざまなアイディアを出して活動されてきました。たとえば映画サークルや健康体操サークルの設立や運営など色々な例を挙げることができます。これらの功績により、第3回のISSP柏賞を受賞されました。

(公開日: 2006年04月14日)