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第7回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

ISSP学術奨励賞
 
木須 孝幸 (先端分光研究部門 特任研究員)
「超高分解能レーザー光電子分光の開発と物性研究」

木須氏は、様々な光源を用いて、実に5台に及ぶ光電子分光装置の開発・建設を行い、それらを用いた研究で目覚しい研究成果を挙げてきた。これらの中で特筆すべきは、レーザーを光源として用いた、世界で初めてとなる超高分解能光電子分光装置である。擬CWレーザーを用いることで高分解能化の妨げとなるスペースチャージの問題を回避すると共に、従来循環型冷凍機を用いて10K程度までしか試料を冷却できなかった光電子分光の世界に低温の概念を持ち込み、液体ヘリウムを用いた本格的な試料冷却を初めて行った。 
また、電子分析器開発においても様々なアイデアを出し、高効率・高分解能の名機とも言うべき光電子分光装置を生み出した。このアナライザーはVG-SCIENTA社からR4000という名前を付けられ、高分解能光電子分光の世界標準となっている。この高分解能化と低温化によって、世界で初めて高温超伝導体以外の超伝導ギャップの観測に成功し、これによって従来不可能であった非常に小さな電子構造についても研究が行えることを世界に示した。また、電荷密度波等様々な電子物性研究を行い、物性研究における光電子分光の占める地位を大いに向上させた。

北川 健太郎(新物質科学研究部門 日本学術振興会特別研究員)
「超高圧下NMR測定法の開発と鉄系超伝導体における新規な混合状態の観測」

北川氏は、高圧発生技術を出発点として、これに様々な独自の改良を加えてNMR用対抗アンビルセルを開発し、更に液化アルゴン封入によって静水圧性の良い9GPaまでの圧力環境下でNMR測定を行う技術を開発した。この圧力セルは、到達圧力・試料容積・圧力の均一性の総合面で画期的な性能を有し、更に瀧川研の試料回転機構と組み合わせると、単結晶試料を用いた強相関電子系の圧力下量子相転移の研究において、世界的にも類のない精密なNMR測定が可能になった。約半年に及ぶ開発過程で、有限要素法による応
力分布の計算によって最適なセルの形状を求めるという合理的な設計指針を示す一方で、形状や材質の異なる40個以上ものガスケットを試作するという強靭な忍耐強さも発揮した。
 次に、この圧力セルを用いて、鉄系超伝導体の母物質であるSrFe2As2単結晶試料の圧力による反強磁性―超伝導転移をヒ素原子核のNMRによって調べた。鉄ヒ素系化合物は通常、反強磁性転移を示す母物質に元素置換によってキャリアをドープすることにより超伝導が実現するが、SrFe2As2では不規則性を伴う元素置換によらずに圧力印加によっても高温超伝導が実現することが知られている。北川氏はアルゴンを厚媒体として用いた均一な圧力下では、5GPa付近の狭い圧力範囲でのみ超伝導が実現すること、そこでは1つの転移温度を境に常磁性常伝導相から、反強磁性と超伝導が空間的に異なる場所で共存する新奇な混合状態に転移することを見出した。この結果は今年の2つの大きな国際会議(ICM2009とM2S2009)において口頭発表に選ばれた。

ISSP柏賞
 
市原 正樹(附属物質設計評価施設 技術職員)
「技術部活動、福祉、厚生、広報活動における多大な貢献」

電子顕微教室における本務はもとより、技術職員会や技術部における活動、悩み相談、メンタルヘルス等の福祉活動、コーラス部、音楽の夕べ、写真展などの厚生活動、記念事業など各種イベントでの企画や写真撮影、物性研アーカイブスなどの広報活動等、長年に渡る物性研究所における多大な尽力と貢献に対してISSP柏賞が授与された。

左から、木須孝幸 氏、家 所長、市原正樹 氏、北川健太郎 氏
(公開日: 2010年03月16日)