岩畑遼さん(山下研M2)が第71回物性若手夏の学校の優秀発表賞を受賞
山下研究室の岩畑遼さん(修士課程2年)が、第71回物性若手夏の学校(2026年8月17日〜21日、阿蘇プラザホテル)の分科会Dにおいて優秀発表賞を受賞しました。優れた発表を行い、物性に関わる若手研究者たちに大きな刺激を与えた点が評価されています。
受賞対象となった発表タイトルは「3次元Kitaev候補Co-MOFの¹³C NMRを用いた磁気構造探索」です。
金属イオンと有機配位子からなる金属有機構造体(MOF)は、構成要素の選択によって骨格構造を設計できる物質群であり、2025年のノーベル化学賞の受賞対象となるなど注目を集めています。この設計性は、通常の無機化合物では得がたい格子をもつ磁性体の構築を可能にします。
本研究で対象とした[Ru(bpy)3][Co2(ox)3]では、Co(II)イオンがシュウ酸配位子を介して3配位で連結し、ジャイロイド型の三次元格子を形成します。この格子は、強いフラストレーションを伴うKitaev模型の舞台であり、本物質はその数少ない三次元候補物質にあたります。実際、磁化率や比熱測定は複数の磁気相の存在を支持し、フラストレーションの存在が示唆されています。しかし、その起源を探るための微視的な磁気構造については、実験的な手がかりがほとんど得られていませんでした。これは、中性子回折を用いた磁気構造決定が大型単結晶試料を必要とし、本物質への適用が困難であったことに起因します。
そこで本研究では、単結晶13C NMR測定を用い、シュウ酸配位子上の13C核が周囲のCo磁気モーメントから受ける内部磁場をサイトごとに解析することで磁気構造の解明を目指しました。まず、常磁性領域において、(1-10)面の様々な方位に外部磁場を印加した下でNMRスペクトルを測定しました。その結果、10本以上の共鳴ピークが磁場方位に応じて系統的に周波数シフトする様子を観測し、それぞれを単位胞内の12個のシュウ酸分子上の13C核に対応付けました。これにより、各位置での内部磁場を個別に調べることが可能となりました。さらに磁気秩序相では、内部磁場分布が結晶構造と同様に[111]軸まわりの三回回転対称性を保持することを明らかにしました。この結果は、許されるスピン配列を強く制約するものであり、これまで未解明であった本物質の磁気構造解析を大きく前進させました。
本成果は、三次元Kitaev候補物質[Ru(bpy)3][Co2(ox)3]の磁気構造解明に向けた重要な手がかりを与えるものです。さらに、微小なMOF単結晶に対してもNMRによる微視的な磁気構造解析が可能であることを示した点で、今後、多様なMOF磁性体を量子磁性研究の舞台として展開するための基盤となります。