佐野涼太郎助教が日本物理学会の学生優秀発表賞を受賞
加藤研究室の佐野涼太郎助教(受賞当時:京都大学大学院理学研究科 凝縮系理論グループ 博士課程3年生)は、3月18日〜21日にかけてオンライン開催された日本物理学会2025年春季大会において、学生優秀発表賞(領域4:半導体、メゾスコピック系、量子輸送分野)を受賞しました。同賞は日本物理学会において若手の優秀な発表を奨励することを目的に設けられたものです。
受賞対象となった発表タイトルは「DNA二重らせんに沿った可変領域ホッピング伝導によるカイラリティ誘起スピン選択性」です。
空間反転対称性と鏡映対称性の破れによって定義される「カイラリティ」は、現代では物性物理学における中心的概念となりつつあります。特に、DNA 等の生体分子を舞台に実現されたカイラリティ誘起スピン選択性(CISS)は、スピン軌道相互作用が小さい有機分子においても室温で高いスピン偏極率を発現させる機構として発見当初より大きな注目を集め、現在も世界中で盛んに研究されています。カイラリティはあらゆる生物の構成要素である有機分子やその構造に内在するため、有機物質においてスピン機能を発現させる上で重要な性質であり、スピン軌道相互作用や磁性体に頼らない新たなスピントロニクスの可能性を拓くと期待されます。ところが、元来スピン軌道相互作用が小さい有機分子において「なぜカイラリティがこのような高いスピン偏極率を実現するのか」は未だ謎に包まれており、この現象の背後に潜むメカニズムを解明するカギが今まさに求められています。
佐野氏は「電子スピンとカイラルフォノンとの相互作用」という新奇なトピックに着目し、長年メカニズムが未解明であったCISSに「フォノンの角運動量」という新たな視点を加えることができる可能性に気付き、DNA二重らせんにおけるスピン伝導の理論研究を行ってきました。そこで、DNA等をはじめとするアンダーソン局在系では、温度の低下とともにスピン偏極率が増大することを予言しました。特に、近年実験的に検証されつつある反平行スピン対が非平衡状態において系の両端に形成されることを数値的に明らかにし、対称性の議論と組み合わせることで、この反平行スピン対がオンサーガーの相反定理を破りうることを明らかにしました。本成果は、DNA二重らせんに沿ったスピン伝導における乱れとカイラルフォノンの重要性を浮き彫りにするとともに、CISS 効果の温度依存性に関して更なる実験研究を促進するものであると期待されます。
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- 東京大学物性研究所 加藤研究室