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量子幾何効果に基づく新しい超伝導を実証 ―精密量子計測を用いて2次元物質の物理に新たな展望―

東京大学物性研究所の田中未羽子助教はマサチューセッツ工科大学、物質・材料研究機構と共同で魔法角捻り積層グラフェン(注1)に発現する超伝導状態をマイクロ波測定で調べ、量子幾何効果に基づく新しい超伝導が実現していることを明らかにしました。

Graphene

図:超伝導マイクロ波共振器に魔法角捻り積層グラフェンを結合したデバイスの概念図
共振周波数を測ることで超伝導現象を担うクーパー対の運動に起因する慣性インダクタンスを測定した
image credit: Eli Krantz, Krantz NanoArt

2次元物質の超流動スティッフネス(注2)を測定することはこれまで困難でしたが、本研究では2次元物質を結合した超伝導マイクロ波共振器のインダクタンスを測るという新しい手法で精密測定を可能にしました。超流動スティッフネスは超伝導の位相の固さを表す物理量で、従来バンド分散で決まると考えられてきましたが、魔法角捻り積層グラフェンにおいてバンドの量子幾何学的構造を反映した新たな超流動スティッフネス項が存在することを初めて実験的な直接観測によって示しました。この研究により超伝導という現象の根本的に重要な知見が得られただけでなく、開発された測定手法が2次元物質の研究を飛躍的に推進することが期待されます。

本成果は、英国科学誌の「Nature」に2025年2月5日(現地時間)にオンライン掲載されました。

マサチューセッツ工科大学発表のプレスリリース

論文情報

  • 雑誌名 : Nature 638, 99–105 (2025)
  • 題名 : Superfluid Stiffness of Magic-Angle Twisted Bilayer Graphene
  • 著者名 : Miuko Tanaka, Joel ˆI-j. Wang* , Thao H. Dinh, Daniel Rodan-Legrain, Sameia Zaman, Max Hays, Aziza Almanakly, Bharath Kannan, David K. Kim, Bethany M. Niedzielski, Kyle Serniak, Mollie E. Schwartz, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Terry P. Orlando, Simon Gustavsson, Jeffrey A. Grover, Pablo Jarillo-Herrero*, and William D. Oliver*(*責任著者)
  • DOI:https://doi.org/10.1038/s41586-024-08494-7

用語解説

(注1)魔法角捻り積層グラフェン :
厚さが原子1層分の炭素のシートであるグラフェンを2枚重ねる際に、結晶軸を相対的に面内に回転させて積層したもの。特定の積層角度(=魔法角)でフラットバンドを形成し、強相関効果や超伝導を発現することが知られている。
(注2)超流動スティッフネス :
超伝導体に電流を流した時に量子力学的位相の勾配がどれだけ生じるかを示す物理量。直観的には超伝導の「固さ」のようなものであり、固いほど超伝導状態が安定である。

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(公開日: 2025年02月06日)