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押川研の稲村寛生氏、上田篤氏(受賞当時D3)が理学系研究科研究奨励賞を受賞

押川研究室の稲村寛生氏と上田篤氏(ともに受賞当時博士後期課程3年生)は、令和5年度理学系研究科奨励賞(博士後期課程)を受賞しました。同賞は、東京大学大学院理学系研究科の博士後期課程学生のうち、すぐれた研究をおこなった博士後期課程修了者に贈られるものです。授賞式は3月21日、東京大学本郷キャンパス小柴ホールにて行われました。なお、近藤研究室の田中宏明氏も同賞を受賞しています。

受賞対象となった研究は、稲村氏「圏論的対称性を持つ量子多体系の分類および構成」、上田氏「テンソルネットワークによる繰り込み群フローと固定点の研究」です。

2023年度理学系研究科奨励賞(博士後期課程)

(左)稲村寛生氏 
(中)小形正男理学系研究科物理学専攻長 理学部物理学科長(当時) 
(右)上田篤氏

稲村寛生氏の研究 「圏論的対称性を持つ量子多体系の分類および構成」

近年、圏論的対称性と呼ばれる群より一般の代数構造を持つ対称性が注目を集めています。圏論的対称性は、さまざまな物理系に普遍的に存在しており、例えば、1+1次元の臨界Ising模型におけるKramers-Wannier自己双対性は圏論的対称性の一例になっています。こうした対称性を持つ模型の構成や相の分類は、量子多体系という理論的な枠組みにおいて存在する多様な物質相を理解する上で重要です。稲村氏は、一連の研究において、圏論的対称性に守られた時間反転不変な1+1次元トポロジカル相の分類や、圏論的対称性を持つ1+1次元および2+1次元の格子模型の系統的な構成を行いました。特に、稲村氏らの構成した2+1次元の格子模型は、一般の有限の圏論的対称性を持つ2+1次元の物理系として初めての例であり、こうした対称性を持つ2+1次元の量子多体系に関する今後の研究の基礎となりうるものです。

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上田篤氏の研究 「テンソルネットワークによる繰り込み群フローと固定点の研究」

格子場の模型、量子模型や統計力学の模型をシミュレーションする新たな手法として、近年テンソルネットワークが注目されています。従来、負符号問題によってモンテカルロシミュレーションで計算できなかったようなフラストレーション系なども計算ができ、新たに主流となる手法として研究されています。テンソルネットワークによる手法は大きく分けて2つ存在し、Martix Product State(MPS) や Projected-Entangled Pair State(PEPS)と呼ばれるような基底状態をVariationalに求めるものと、Tensor Renormalization Group(TRG)やTensor Network Renormalization Group(TNR)と呼ばれる熱力学的極限の分配関数や物理量を直接計算する手法があります。上田氏らは、後者のTRGやTNRにおける精密計算を可能にする枠組みを提案しました。

TRG/TNRに連続場の理論の繰り込み群を組み合わせることで小さなシステムサイズで高精度の計算が可能なことを提案しました。また、今までの研究で受け入れられていたTRG/TNRでの熱力学的極限の計算は比較的大きなエラーが存在していたことを指摘し、その数値エラーの定量的な見積もりが場の理論でできることを提案しました。これらによって、従来されていなかったTRG/TNRを使った有限サイズの計算の枠組みを作ることができました。この手法は数値的に軽量かつ精密で、対数補正で決定が困難であった古典XY模型の転移点をスーパーコンピューターを用いたモンテカルロ大規模計算よりも良い結果をデスクトップの計算機で再現できることを示しました。これらの研究は、解析的な手法である場の理論と数値的な手法であるテンソルネットワークを橋渡する重要な研究となりました。特に、エンジニア色強かったTRG/TNRの分野で今まで見過ごされていたとても小さな量からRGフローや格子模型の背後に潜むオペレーターの構造を計算できるようになったことは、物性分野にとどまらず格子場の理論などの高エネルギー分野への大きなインパクトが期待されます。

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    | Physical Review B

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(公開日: 2024年04月18日)