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強誘電体中で漂うソリトン ―磁場による量子液体・量子液体相転移―

東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設の今城周作特任助教、三宅厚志助教(現東北大准教授)、栗原綾佑特任研究員(現東京理科大助教)、徳永将史准教授、金道浩一教授らの研究グループは産業技術総合研究所の堀内佐智雄上級主任研究員、東京工業大学、理化学研究所創発物性科学研究センターの賀川史敬教授と共同で、有機強誘電体の一つで現れる励起されたソリトン(注1)が極低温でも運動している量子液体として振舞い、さらに、磁場を印加すると別の量子液体状態へと相転移することを発見しました。古典的な液体でも液体・液体相転移は特殊な状況でしか現れず、その起源にはいまだに謎が多くあります。今回、量子力学的に動く粒子が磁場によって量子液体から量子液体へと相転移する現象を初めて発見したことは、新規現象の発見という点だけでなく、古典液体の理解にも貢献する可能性が期待されます。


fig1 有機物中を動くスピンソリトンが磁場によって量子液体状態から別の量子液体状態へと相転移する

図1 有機物中を動くスピンソリトンが磁場によって量子液体状態から別の量子液体状態へと相転移する

古典的な液体では秩序(注2)がないために基本的に1つの液体相しか存在しませんが、水のように局所安定構造を伴う一部の異常な粒子では複数の液体相が存在し、液体・液体相転移が観測されます。液体・液体相転移については、さまざまな自由度が絡むためいまだにその完全な理解は進んでいません。また、近年、熱揺らぎではなく量子揺らぎによって秩序化しない量子液体という概念が注目されています。この量子液体についても古典的な液体と同様の液体・液体相転移、つまり、その量子液体状態が非熱的に異なる量子液体状態へと変化するかという点はこれまで不明でした。

今回、強誘電転移とスピンパイエルス転移を同時に示す一次元有機物質のトポロジカル欠陥として励起されるスピンソリトンに注目してパルス強磁場測定を行いました。過去に同研究グループではゼロ磁場での研究を行っており、極低温でもスピンソリトンはトンネル効果によってポテンシャル障壁を透過して運動していることを示していました。今回はスピンソリトンの密度・ダイナミクスに注目し、そのソリトンが量子液体状態であることを示し、さらに、磁場を印加すると強磁場中で新たな量子液体状態となる可能性が示されました。量子臨界点近くでスピンパイエルス転移を示すという背景を元に、強い量子揺らぎとゼーマン効果による二量化が格子と不整合になる転移が原因であると突き止めました。

近年、さまざまな物理現象において古典的概念が量子物性の理解へと応用されています。今回は逆に量子液体・量子液体相転移の発見が、謎の多い古典粒子の液体・液体相転移の理解の促進にも繋がる可能性が期待されます。

本研究の成果は2024年2月28日に米国科学誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。

論文情報

  • 〈雑誌〉 Physical Review Letters
  • 〈題名〉 Quantum Liquid States of Spin Solitons in a Ferroelectric Spin-Peierls State
  • 〈著者〉 S. Imajo, A. Miyake, R. Kurihara, M. Tokunaga, K. Kindo, S. Horiuchi, and F. Kagawa
  • 〈DOI〉 10.1103/PhysRevLett.132.096601

用語解説

(注1)ソリトン:
粒子のようにふるまう孤立した波。伝搬によって波の形状が変化しないことが特徴。今回の場合、孤立波によって理解される励起状態のことを指す。
(注2)秩序:
一定の規則に沿って並んでいる状態を秩序がある、並んでいない不規則な状態を秩序がないと表現する。秩序がある固体では、同一の組成でも異なる規則に沿って並ぶ物質は別の固体相として区別される。一般的な液体では秩序がないため、不規則な状態を区別できないことから1つの液体相しか存在し得ない。

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