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分数量子ホールエッジ状態の強結合相における電荷中性流を実証

NTT物性科学基礎研究所の橋坂昌幸 特別研究員(研究当時、現:東京大学物性研究所 准教授)らの研究グループは、および東北大学理学研究科の柴田尚和 教授の研究グループと共同で、分数量子ホール系のカイラルエッジ電流と逆走する電荷中性流を実証しました。

量子ホール系では、試料端における一次元一方向性のカイラルエッジチャネルが電流を運ぶことが知られています。試料端に複数のエッジチャネルが生じる場合、チャネル間のクーロン相互作用と電荷散乱の競合により、その輸送特性が変化します。占有率2/3分数量子ホール系は、この変化を示す典型例として盛んに研究されています。 2/3分数量子ホール系では、対向するv = 1/3 分数エッジチャネルとv = 1 整数エッジチャネルが生じ、これらの1/3-1対向チャネルが極めて強く結合した強結合相、または弱結合相のいずれかの電子状態を取ります。これらの相は互いに異なる固有励起モードを持ち、理論的には明確に区別されます。強結合相ではカイラルエッジ電流と逆走する電荷中性流の存在が予想されており、標準的な分数量子ホール系試料の輸送特性を説明するための基本的な理論モデルとなっています。しかし実験で強結合相を同定するためには、ごく短い対向チャネルで固有モードのコヒーレント輸送を測定する必要があり、困難な課題でした。

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図.(a) 整数-分数量子ホール接合. スプリットゲートによって形成された微小な接合部分に1/3-1対向エッジ状態が発現する. (b) 1/3-1対向エッジ状態の相図. (c) GaAs量子井戸を用いて作製した整数-分数量子ホール接合試料と実験セットアップ

本研究では、元々の2/3分数量子ホール系試料端と電子正孔対称な整数-分数量子ホール接合を利用し、1/3-1対向チャネルを作製しました。ゲート電圧によってこの対向チャネルの長さを連続的に変化させ、短チャネル領域のコヒーレント伝導から長チャネル領域のインコヒーレント伝導に至るまで、電荷輸送と熱輸送の変化を調べました。その結果、強結合相の証拠である、中間的なチャネル長領域における電気伝導度の振動と熱伝導度の量子化を観測し、この相の特徴であるカイラルエッジ電流と逆走する電荷中性流の存在を実証しました。これはトポロジカル量子多体系のエッジ輸送メカニズムを実証した成果であり、様々なトポロジカル系における量子輸送現象を紐解いていくために基礎となる知見を与えます。

発表論文

  • 雑誌名:Physical Review X
  • 論文タイトル:Coherent-Incoherent Crossover of Charge and Neutral Mode Transport as Evidence for the Disorder-Dominated Fractional Edge Phase
  • 著者:Masayuki Hashisaka, Takuya Ito, Takafumi Akiho, Satoshi Sasaki, Norio Kumada, Naokazu Shibata, Koji Muraki
  • DOI:10.1103/PhysRevX.13.031024

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(公開日: 2023年09月08日)