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異なる二次元結晶を重ねた界面で スピン偏極した光電流が流れることを発見 – 二次元物質界面における新しい光スピントロニクス機能の開拓 –

東京大学物性研究所の井手上敏也准教授と東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)らの研究グループは、Nanjing University、Princeton University、University of California at Berkeleyのグループと共同で、2種類の異なる二次元結晶(注1)(二セレン化タングステン(WSe2)とリン化ケイ素(SiP))を重ねて作製した界面に円偏光(注2)を照射することで、界面の特定の方向にスピン偏極(注3)した光電流が流れることを発見しました。

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WSe2/SiP界面における円偏光に依存する光電流

三次元層状物質から剥離した数原子層からなる二次元結晶は、貼り合わせる物質の種類とはほぼ無関係に作製できるという特徴があります。そのようにして作製された二次元結晶界面では、元の結晶にはない特徴的構造とそれを反映した新しい物性や機能性が発現することがあり、近年大きな注目を集めています。本研究では、二次元結晶界面の対称性に着目して、異なる結晶構造を持つ二次元結晶を重ねて界面の対称性を低下させることで、円偏光によって励起されたスピン偏極キャリア(電子やホール)の整流効果(注4)を実現できることを明らかにしました。さらに、光電流の詳細な振る舞いを調べることで、観測された光電流が、電子の幾何学的性質を反映した量子力学的機構によって説明できることを見出しました。

本研究成果は、二次元結晶界面における新しい光スピントロニクス機能を与えるものであり、二次元結晶界面の機能性開拓をさらに推進する契機となると期待されます。

本研究成果は、2023年6月15日(英国夏時間)に英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」オンライン版に掲載されました。

fig1

図1:WSe2(左)、SiP(中央)、WSe2/SiP界面の結晶構造の模式図
実線は鏡像対称面、⦿は回転軸を表している。

東京大学大学院工学系研究科発表のプレスリリース

論文情報

  • 雑誌:Nature Nanotechnology
  • 題名:Berry Curvature Dipole Generation and Helicity-to-spin Conversion at Symmetry-mismatched Hetero-interfaces
  • 著者:Siyu Duan, Feng Qin, Peng Chen, Xupeng Yang, Caiyu Qiu, Junwei Huang, Gan Liu, Zeya Li, Xiangyu Bi, Fanhao Meng, Xiaoxiang Xi, Jie Yao, Toshiya Ideue, Biao Lian, Yoshihiro Iwasa, Hongtao Yuan
  • DOI:10.1038/s41565-023-01417-z

用語解説

注1:二次元結晶
原子や分子が、1つの層の二次元平面内で周期性を持って配列した物質。
注2:円偏光
光の進行に伴い、光の電場と磁場の成分が進行方向に垂直な面内で回転する状態のこと。
注3:スピン偏極
電子の磁石としての性質であるスピンが特定の方向に偏った状態。

注4:整流効果
特定の方向へ電流が流れるときに、正方向と負方向で流れやすさが異なる現象のこと。

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(公開日: 2023年06月20日)