近年の情報技術、AI、IoTの発展により、データトラフィックは指数関数的に上昇し、データ処理・伝送に必要な消費電力の削減が大きな課題になっています。また今後のクラウドやエッジコンピューティングを用いた自動運転や遠隔医療、工場の自動操業などのサービスの実現には大量のデータを高速で処理する必要があります。そのため、現状のシリコン半導体技術の性能を超える高速、かつ、低消費電力な情報処理技術の開発が求められています。このような状況の中、待機時に電力を必要としない不揮発性メモリ(注4)として、現在、商業化が進んでいるものに磁気抵抗メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory: MRAM)(注4)があります。
MRAMは不揮発性による低消費電力のみならず、繰り返し耐性が非常に高いことからもDynamical RAM(DRAM)(注5)に取って代わる次世代のメモリとして注目されています。しかし、MRAMの動作周波数は100MHzから1GHz程度であり、Static RAM(SRAM)(注5)の置き換えにはスピードが足りません。そこで今後の情報処理と伝送のさらなる高速化を見据えて、(i) SRAMよりも高速な1THz程度での動作が可能であり、さらに (ii) 複雑な構造のSRAMよりも大幅に微細化可能なMRAMの開発が望まれていました。
タイトル:Octupole-driven magnetoresistance in an antiferromagnetic tunnel junction
著者:X. Chen+, T. Higo+, K. Tanaka+, T. Nomoto, H. Tsai, H. Idzuchi, M. Shiga, S. Sakamoto, R. Ando, H. Kosaki, T. Matsuo, D. Nishio-Hamane, R. Arita, S. Miwa & S. Nakatsuji* (+ : Equal contribution, * : Corresponding author)
DRAMはDynamic Random Access Memoryの略です。コンデンサとトランジスタを組み合わせた揮発性メモリであり、コンデンサへの電荷蓄積の有無で情報を保存します。構造が単純で安価に大容量化が可能なため、現在のコンピュータにメインメモリとして広く用いられています。電荷は時間経過とともに失われるため、定期的に再書き込みを行う必要があります。
SRAMはStatic Random Access Memoryの略です。DRAM同様に半導体メモリの一種であり、トランジスタの組み合わせにより構成されます。高速動作を得意としますが、複数のトランジスタを用いるため大容量化が困難です。
いずれのメモリも電源を切ると情報が失われる揮発性メモリであり、情報処理を行っていない待機時のリフレッシュ動作やリーク電流によるエネルギー消費が深刻な問題となっています。