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電気的な偏りのない層状結晶に歪みを加えて面内に電荷の偏りと光起電力効果を実現 ―歪みによる二次元物質の機能開拓へ新しい可能性―

東京大学 大学院工学系研究科のドン ユ大学院生と同研究科の岩佐義宏教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)、東京大学 物性研究所の井手上敏也准教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターのヤン ミンミン研究員(研究当時、現所属:Department of Physics, The University of Warwick)らの研究グループは、東京大学 大学院工学系研究科の森本高裕准教授、長谷川達生教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターの小川直毅チームリーダーらのグループと共同で、正三角形の対称性を持つファンデルワールス結晶(注1)である二硫化モリブデン(MoS2)(注2)を歪ませることで、面内に電気分極(注3)とそれを反映した巨大な光起電力効果(注4)が生じることを発見した。

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図. MoS2結晶への一軸性歪み印加による分極とバルク光起電力効果の発現。歪みを印加していない試料では印加電圧なしの状況下での光電流は観測されていないが、歪みを印加した試料では印加電圧なしの状況下で有限の光電流が観測されている。

層間がファンデルワールス力によって結合したファンデルワールス結晶は、薄膜化や界面の作製、柔軟性を生かした変形等によって、元の物質とは全く異なる物性や機能性を実現することができ、近年大きな注目を集めている。中でも、歪みを印加したり曲げたりすることによって変形したファンデルワールス結晶では、元の結晶とは異なる対称性が実現でき、それを反映した新奇物性の発現や電気・光応答の巨大化が期待される。本研究では、正三角形の対称性を持ったファンデルワールス結晶が一軸性歪み(注5)によって対称性が変化することに着目して、歪みによって面内に電気分極を実現するとともに、分極に由来する光起電力効果(バルク光起電力効果(注6))を観測することに成功した。さらに、観測される光電流の大きさが歪みの大きさに伴って増大することや、観測された光電流の振る舞いが電子の量子力学的な波束の重心位置が光照射によって空間的に変位するという機構によって説明できることを見出した。

本研究成果は、歪みによるファンデルワールス結晶の対称性制御を基軸とする機能性開拓という新たな可能性を示した成果であり、さまざまな二次元層状物質の歪みによる機能性開拓をさらに推進する契機となるだけでなく、電気分極とバルク光起電力効果との関係性に重要な知見を与えるものと期待される。

本研究成果は、2022年11月21日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」オンライン版に掲載された。

工学系発表のプレスリリース

発表雑誌:

    雑誌名:「Nature Nanotechnology」(オンライン版:11月21日)

  • 論文タイトル:Giant bulk piezophotovoltaic effect in 3R-MoS2
  • 著者: Yu Dong, Ming-Min Yang, Mao Yoshii, Satoshi Matsuoka, Sota Kitamura, Tatsuo Haswgawa, Naoki Ogawa, Takahiro Morimoto, Toshiya Ideue, Yoshihiro Iwasa
  • DOI番号:10.1038/s41565-022-01252-8

用語解説:

注1:ファンデルワールス結晶
二次元的な原子層の層間が、分子間力の1種であるファンデルワールス力によって結合した層状物質。炭素の原子層数層からなるグラフェンが代表例。
注2:二硫化モリブデン
組成式がMoS2と表されるファンデルワールス結晶の一つで、スコッチテープを用いた劈開等によって薄膜化することができる。単層はモリブデンと硫黄の原子が交互に並んで蜂の巣格子を形成しており、正三角形の対称性を持つ。本研究で用いたのは、隣接する層の正三角形の向きが同じ方向にそろって積層した多層3R- MoS2と呼ばれる試料である。
注3:電気分極
電荷の偏った状態、およびそれを定量的に表した物理量。
注4:光起電力効果
物質に光を照射すると電流が流れる現象のこと。
注5:一軸性歪み
結晶を1方向のみに変形させるような歪み。
注6:バルク光起電力効果
空間反転対称性の破れた物質において、光を照射した際に生じる自発的な光起電力効果のこと。p型(電子の少ない)半導体とn型(電子の多い)半導体の接合であるpn接合を必要としないため、従来型太陽電池の理論限界を超える可能性が期待されている。

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(公開日: 2022年11月25日)