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リン酸結晶中に組み込まれた極性分子の回転によって無加湿でも等方的に高いプロトン伝導度を示す物質を発見

東京大学物性研究所の出倉駿特任助教、森初果教授らの研究グループは、金沢大学ナノマテリアル研究所の水野元博教授と共同で、無加湿条件下で等方的かつ10−3 S/cmを超える高いプロトン伝導性を示す物質を見出し、結晶中の3次元的水素結合ネットワークに組み込まれた極性分子の回転運動がプロトン伝導を促進していることを明らかにしました。

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図1 (a)本研究の対象であるリン酸-イミダゾール塩の(上)分子構造と(下)結晶構造。水色の点線は水素結合を表す。リン酸の3次元的な水素結合ネットワークにイミダゾールが組み込まれており、イミダゾールの激しい運動性のため無秩序配向が見えている。(b)対象物質の単結晶を用いて結晶構造の各軸方向に測定した無水プロトン伝導度の温度依存性。分子配列が異方的にもかかわらず極めて等方的で、いずれの方向も78 ℃で10−3 S/cmを超える高い伝導度を示している。挿入図に示すように、リン酸ネットワークでのプロトン伝導で生じる分極を、イミダゾールの回転運動によって緩和することで高速なプロトン伝導を実現していることが明らかになった。

固体中を水素イオン(プロトン:H+)が伝導する「プロトン伝導体」は水素燃料電池の固体電解質への応用で注目されており、特に加湿による水分子の導入を必要としない「無水プロトン伝導体」の開発が求められています。しかし、高いプロトン伝導度が報告された既報の無水プロトン伝導体はポリマーと無機酸の混合物などの無秩序な物質であるため、伝導機構を理解することは難しく、高伝導性の無水プロトン伝導体の設計指針は得られていませんでした。

本研究では、規則的な構造を有し機構解明のモデル物質として最適である、分子性の単結晶を用いて高伝導性の無水プロトン伝導体の設計指針を提案することを目指しました。水中のプロトン伝導機構との類推から、無水の分子性結晶においては結晶中の分子回転運動が重要であることが期待されます。そこで、結晶中で分子回転運動を示すことが知られているリン酸とイミダゾール[図1(a)]を用い、リン酸の3次元水素結合ネットワークにイミダゾールを組み込むことで、構成分子の運動性を活用した高プロトン伝導性の実現を試みました。その結果、得られたリン酸:イミダゾール=2:1の単結晶が、有機の分子性結晶では初となる、78 °Cで等方的かつ10−3 S/cmを超える無水プロトン伝導性を示すことを見出しました[図1(b)]。この伝導性は既報の分子性リン酸塩と比較して最も高い伝導度であり、リン酸の相方であるイミダゾールが伝導を促進していることが示唆されます。構成分子の運動性を選択的に評価できる固体核磁気共鳴に加え、結晶構造の温度変化を併せて議論することで、リン酸ネットワーク中を伝導するプロトンが生み出す分極を極性分子であるイミダゾールの3次元的な分子回転運動によって緩和することで、高いプロトン伝導性を実現していることを明らかにしました。本研究によれば、プロトン伝導ネットワークに回転運動性の極性分子を組み込む戦略が、これまでにない高伝導性の無水プロトン伝導体の実現に繋がると期待されます。

本研究成果は、2022年10月17日付でドイツ化学会の国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に公開されました。

発表論文

  • 雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
  • 論文タイトル:Isotropic Anhydrous Superprotonic Conductivity Cooperated with Installed Imidazolium Molecular Motions in a 3D Hydrogen-Bonded Phosphate Network
  • 著者: Shun Dekura, Motohiro Mizuno, Hatsumi Mori
  • DOI:10.1002/anie.202212872

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(公開日: 2022年10月25日)