神田 夏輝 助教(松永研)、鈴木 剛 助教(岡﨑研)が日本物理学会の若手奨励賞を受賞
松永研究室の神田 夏輝 助教、岡﨑研究室の鈴木 剛 助教が日本物理学会若手奨励賞(領域5:光物性)を受賞しました。この賞は、将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために設けられたものです。授与式は、オンラインで行われた年会内にて3月17日に行われました。
受賞対象となった研究は次のとおりです。
神田氏は、テラヘルツ光技術、特に偏光の精密計測と制御に注目して技術開発を進めてきました。金薄膜相補二層カイラル格子構造のメタマテリアルを使ってテラヘルツ領域での光学活性を発現させることに成功し、またシリコン基板上の金薄膜カイラル格子に光励起することで光学活性を動的に制御することにも成功しました。その上で金薄膜を使わず励起光に空間光変調を施すことで光学活性を全光学的に動的制御する手法を開発しました。これら一連の研究はメタマテリアルによるテラヘルツ偏光動的制御として高く評価されています。
さらにテラヘルツ波の偏光状態を結晶の三回回転対称性に由来した偏光選択則により制御する研究に挑戦し、偏光のねじれたダブルパルスを利用して反強磁性体の磁気双極子テラヘルツ放射の偏光を任意制御することに成功しました。これは反強磁性マグノンの振動モードをベクトル量として2次元的に制御できることを示しています。
さらに東京大学物性研究所に着任して以降は、ディラック半金属テラヘルツ応答に注目して研究を進めてきました。3次元的に質量ゼロの電子が存在するディラック半金属ヒ化カドミウム薄膜に注目し、高強度テラヘルツパルスを照射することで、テラヘルツ周波数帯の高次高調波が極めて高効率に発生することをテーブルトップレーザーで実証することに成功しました。
これ以外にも、前所属の理化学研究所において循環型高強度高繰返しレーザー(通称フォトンリング)の開発に中心的立場で携わったほか、物性研究所着任以降も、テラヘルツから中赤外にわたる17-45 THz(6.7-18 μm)帯において周波数可変の狭帯域高強度パルス光源開発を行い、フィードバック制御を一切使わずに位相揺らぎを16 mrad以下に抑える画期的な技術を開発しました。以上のように高いフォトニクス技術を活用して光物性物理学の発展に貢献してきた点が高く評価され、今後のさらなる発展が期待されています。
関連論文
- N. Kanda et al., Nature Communications 2, 362 (2011).
- N. Kanda et al., Opt. Lett. 39, 3274 (2014).
- B. Cheng*, N. Kanda* et al., Phys. Rev. Lett. 124, 117402 (2020). (* equal contribution)
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鈴木氏は、様々な超高速分光法を用いて半導体励起子物性の研究に従事してきました。まず、光励起広帯域THzプローブ分光による誘電関数・光学伝導度スペクトル計測法を確立し、Siにおける電子正孔液滴・励起子の形成ダイナミクスを明らかにしました。低密度の励起条件では、一様な自由電子正孔から、まず励起子が形成され、その後、電子正孔液滴が核生成的に形成されることを解明しました。一方、高密度の励起条件下では、電子正孔液滴が電子正孔プラズマから凝集していくことを明らかにしました。
次に、米国で研究員として多数InAs量子ドット系における励起子・励起子分子のコヒーレント操作に従事しました。量子ドットはサイズや組成の乱れからスペクトルの不均一幅が大きいため、多数のドットを共通の外場で操作すると、離調などの問題からコヒーレントな効果を検出することが困難とされてきましたが、2次元コヒーレント分光法を検出法として用いることで、周波数に分解した情報を抽出できることを実証しました。
さらに、東京大学物性研究所にて、高次高調波レーザー時間・角度分解光電子分光法を用いて、鉄系超伝導やグラフェンなど数々の量子物質の非平衡状態の研究に従事しています。特に、励起子絶縁体候補物質であるTa2NiSe5における光誘起絶縁体金属転移において、電子・格子相互作用の強さをバンド・モード選択的に測定できる周波数領域角度分解光電子分光法を開発し、金属化に関わる主要な格子変異を明らかにしました。
以上のように鈴木氏は、領域5で長い歴史を持って研究されてきた半導体電子正孔系の物理についての数々の先駆的な研究成果を挙げており、質、量ともに同世代同分野の研究者の中で群を抜いた存在といえます。特筆すべきはレーザー分光、テラヘルツ分光から光電子分光法にわたる幅広い技術を駆使して光物性物理学の基礎学理の構築に大きく貢献している点にあり、今後も領域5に関連する学際研究を縦横無尽に推進し、新分野開拓を牽引していくことが期待されます。
関連論文
- T. Suzuki and R. Shimano, Phys. Rev. Lett. 103, 057401 (2009).
- T. Suzuki, et al., Phys. Rev. Lett. 117, 157402 (2016).
- T. Suzuki, et al., Phys. Rev. B 103, L121105 (2021).