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川口海周(近藤研D3)氏、日本放射光学会の学生発表賞を受賞

近藤研究室D3の川口海周氏が、2022年1月8日にオンライン開催された第35回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムにて、JSR2022学生発表賞を受賞しました。この賞は、日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムにて、将来性・独創性のある優秀な発表を行った学生に授与されるものです。

受賞対象となった発表は、「時間・スピン・角度分解光電子分光装置の開発とスピン偏極表面状態の光励起ダイナミクス観測」です。

時間・スピン・角度分解光電子分光 (Tr-SARPES) 装置の開発、および開発した装置で実際に測定したスピン偏極表面電子状態の非占有バンド構造と、その光励起ダイナミクスについて発表しました。

Tr-SARPESは、スピン分解ARPESをさらに発展させ、時間分解測定までもを可能とする卓越した技術です。スピン分解SARPESは固体の占有電子状態における基本的な量子数であるエネルギー・運動量・スピンすべてを明らかにする強力な実験手法であり、近年では特にトポロジカル物質を対象にそのスピン偏極電子状態の決定に大きく貢献してきました。一方、時間分解ARPESはポンプ・プローブ法によって光励起後の電子・フォノン系の熱緩和や非線形効果をバンド構造からミクロスコピックに観測する手法であり、レーザー光源の発展と共に成長著しい実験技術です。スピン分解かつ時間分解測定を可能とするTr-SARPESが実現すれば、エネルギー・運動量空間における超高速なキャリア・スピンダイナミクスの光学応答が観測可能となり、トポロジカル物質やスピン・バレー物質などにおける新たな光スピントロニクスへの発展が期待されます。

本研究では、東京大学物性研究所で開発を進めてきた高分解能スピン分解ARPESを基盤として、レーザー開発に取り組む物性研小林研究室と協力しながら、高強度・高繰り返し(1 MHz)を特徴とする10.7 eV 超短パルスレーザーのビームライン建設を通じてTr-SARPESを実現させました。スピン分解測定と時間分解測定は共に測定効率が悪いため、それら 2 つの技術を併せもつTr-SARPESを実現するためには高繰り返しレーザーが必要でした。また、ブリルアンゾーン全体の固体内電子構造を測定するためには高い光子エネルギーが求められます。それらを克服する光源活用およびレーザー強度を安定させるビームラインの建設が本研究を成功させる上での鍵となりました。さらに、開発した装置を用いてトポロジカル絶縁体Sb2Te3を対象にTr-SARPES測定を行い、非占有状態におけるヘリカルなスピン偏極バンド構造の直接観測に世界で初めて成功しました。

関連論文

  1. K. Yaji et al., Rev. Sci. Instrum. 87, 053111 (2016). [2] Z. Zhao et al., Opt. Exp. 25, 13517 (2017).

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(公開日: 2022年03月14日)