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室谷 悠太 特任研究員(松永研)がシンポジウム「テラヘルツ科学の最先端VIII」の最優秀若手研究者賞を受賞

松永研究室の室谷 悠太 特任研究員がシンポジウム「テラヘルツ科学の最先端VIII」の最優秀若手研究者賞を受賞しました。このシンポジウムは、日本分光学会テラヘルツ分光部会、テラヘルツテクノロジーフォーラム、応用物理学会テラヘルツ電磁波技術研究会、電子情報通信学会テラヘルツ応用システム特別研究専門委員会が主催するもので、2021年11月24、25日に開催された本シンポジウムで講演された中から学術の向上に貢献する最も優秀な発表を行った者に最優秀若手研究者賞が授与されます。

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受賞対象となった発表は「テラヘルツ駆動されたディラック半金属Cd3As2における誘導レイリー散乱と室温無散逸スローライト生成」です。

光が持つ周期性を利用して固体中の電子の量子的な性質を変化させるフロッケ・エンジニアリングは、物質制御の新しい方向性を示すものとして近年盛んに研究が進められています。しかし理論の進展に対して実験による検証は難しく、光の中の電子が作る量子状態(フロッケ状態)がどのような光吸収を示すのかといった極めて基礎的な問題も調べられていませんでした。

室谷氏は、松永研究室の神田夏輝助教と共同で、マルチテラヘルツ周波数帯の高強度光源を開発し、三次元ディラック半金属Cd3As2におけるフロッケ状態の光学応答関数を精密に計測する実験を行いました。その結果、光の中に置かれたCd3As2は励起周波数よりも低周波側で吸収が増加し、高周波側では逆に誘導放出を発生させることが分かりました。この実験結果を、マクロな現象論的非線形応答の理論とミクロな電子状態の量子力学的計算の双方から検証することで、この現象が誘導レイリー散乱と呼ばれるコヒーレント光学応答の一種であることを突き止めました。誘導レイリー散乱はこれまでは主に絶縁体や離散準位系で調べられてきましたが、半金属に光を当てることで固体特有のプラズマ振動数が変化して屈折率が大きく減少し、その結果、フロッケ状態間の光学遷移が増強されて誘導レイリー散乱が巨大に現れることを発見しました。

光応答の観点から固体のフロッケ・エンジニアリングに迫った実験は世界的に見てもまだほとんど例がありません。従来のテラヘルツ時間領域分光法を拡張して周波数が一桁高いマルチテラヘルツ帯で精密な応答関数計測を実現した技術開発と、この技術を駆使して最先端の物性研究を推し進めた功績など、テラヘルツ科学の発展に資する研究内容について優れた発表を行ったことが評価されました。

関連論文

  1. B. Cheng*, N. Kanda* et al., Phys. Rev. Lett. 124, 117402 (2020).
  2. N. Kanda, Y. Murotani et al., Nano Letters 22, 2358 (2022).
  3. Y. Murotani*, N. Kanda*, et al, arXiv:2112.13113 (* equal contribution)

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(公開日: 2022年03月29日)