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西岡海人(森研M2)氏、分子科学討論会の分子科学会優秀講演賞を受賞

森研究室M2の西岡海人氏が、第15回分子科学討論会の分子科学会優秀講演賞を受賞しました。この賞は、第15回分子科学討論会(札幌)2021における口頭講演において優秀な発表を行った分子科学会会員の若手研究者(33歳未満もしくは学生)に対して授与されるものです。

fig受賞対象となった発表は「1,2,3-トリアゾール-リン酸塩単結晶における等方的無水超プロトン伝導」です。

水素社会の実現に必要不可欠な燃料電池は、現在多くの企業や研究機関で研究対象となっています。その性能を大きく左右する物の一つが、内部で水素イオン(H+: プロトン)を伝導する電解質として用いられるプロトン伝導体です。現在最も普及しているプロトン伝導体は、Nafionに代表されるような、加湿によって水分子をプロトン輸送体として内部に取り込んだ含水系の高分子です。しかし、このような含水系高分子は高いプロトン伝導性を示す一方で、外から絶えず加湿しなければならないばかりでなく、水が蒸発する温度より高温では実用できなくなる、単結晶育成や結晶構造に基づく伝導機構の議論は困難である、といった問題点がありました。 このような背景から西岡氏らは水を利用しない無水系の物質で高伝導性を示す物質を見出すこと、そして単結晶試料を対象とした測定に基づいた伝導機構の詳細な解明、さらにその知見を利用した高伝導性材料の設計指針の確立を志向し、酸と塩基の分子からなる水を含まない塩の単結晶に着目した研究を行なってきました。これまでの研究で、無水プロトン伝導性の獲得には水素結合ネットワークの形成、酸と塩基の酸性度(=プロトンの手放しやすさ)が近いこと、そして結晶中の分子の運動性が重要であることがわかっていました。しかしながら分子が密に規則配列した結晶中で分子の活発な運動を引き起こすことは困難でした。

本研究で西岡氏は、1,2,3-トリアゾールという分子が、分子中のプロトン位置が異なる状態間を高速に相互変換できる”プロトン互変異性”を示し、これによって大きな分子運動をせずともプロトンが伝導できる可能性に着目しました。1,2,3-トリアゾールと酸性度が非常に近いリン酸からなる塩の単結晶を新規に合成したところ、結晶中ではリン酸が2次元層状に並んでおり、その層間を1,2,3-トリアゾール分子が水素結合で繋いだ異方的な分子配列をしていました。にもかかわらず、単結晶の3軸方向に対して測定したプロトン伝導度は等方的であり、その全方向に対して液体のように超高速でプロトンを伝導する超プロトン伝導性を示すことを明らかにしました。また、固体NMR分光法を用いた分子運動の測定から、期待した通りプロトン互変異性によって伝導していることが示唆されました。本研究を通して、高伝導性獲得において、プロトン互変異性を活用することが非常に有用であることが明らかになり、今後さらなる高伝導度材料の作成につながると期待されます。

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(公開日: 2021年11月16日)