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地球形成初期、鉄への水素の溶け込みは硫黄に阻害されていた

東京大学大学院理学系研究科の飯塚理子 客員共同研究員をはじめとする地殻化学実験施設の研究グループは、東京大学物性研究所の後藤弘匡 技術専門職員と日本原子力研究開発機構J-PARCセンター、総合科学研究機構と共同で、地球形成初期を模擬した高温高圧実験を行い、鉄に軽元素が取り込まれる過程を中性子回折によりその場観察しました。その結果、高温高圧下で含水鉱物から脱水した水と鉄との反応で起こる鉄の水素化が、共存する硫化鉄によって抑制されることが明らかになりました。このことから、水素と硫黄が固体状態の鉄に優先的に溶け込み、その後に溶融した鉄に他の軽元素が溶解した可能性が高いことが示唆されました。

鉄を主成分とする地球の中心核(コア)には、数種類の軽元素が溶け込んでいると考えられています。しかし、どんな軽元素(H、C、O、Si、S等)がどの程度存在し、それらがどのようにコアに入ったのかは明らかにされておらず、これまで数多くの実験・理論的研究がなされてきました。軽元素の有力候補の1つである水素は、地球形成初期の原始地球に大量に存在していた水を起源として鉄に取り込まれた可能性があります。しかし、その量やプロセスが他の軽元素によってどのように影響されるかは解明されていませんでした。

今回、硫黄を含む場合には、鉄と反応してできたFeSが鉄の水素化を阻害することが明らかになりました。また、これまでの含水鉱物を含まない試料の先行研究の結果(FeS合金と水素とを直接反応させると水素化したFeSが生成する)とは異なっており、実験中に生成した水が水素化反応のメカニズムや水素化鉄−硫化鉄の相平衡関係に影響を与えているものと考えられます。

fig1

原始地球の形成過程における、鉄への軽元素の取り込みのシナリオ。微惑星の集積時に固体の鉄へと水素と硫黄が取り込まれ、融点が降下してできた鉄メルトに他の軽元素が濃集してコアが形成されたと考えられる。水がいつ、どの程度地球にもたらされたかがコア中の軽元素の謎を解明する鍵となる。

理学系発表のプレスリリース

発表雑誌

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文タイトル:Behavior of light elements in iron-silicate-water-sulfur system during early Earth’s evolution
  • 著者:Riko Iizuka-Oku*, Hirotada Gotou, Chikara Shito, Ko Fukuyama, Yuichiro Mori, Takanori Hattori, Asami Sano-Furukawa, Ken-ichi Funakoshi, Hiroyuki Kagi
  • DOI番号:10.1038/s41598-021-91801-3
(公開日: 2021年06月24日)