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電気二重層キャパシタを用いたパルス磁場発生に成功

東京大学物性研究所の小濱芳允准教授、松井一樹博士研究員、神田朋希大学院生、金道浩一教授、北海道大学の井原慶彦講師のグループは、電気二重層キャパシタを用いた新たな磁場発生装置の開発に成功しました。磁場は物性研究や核融合実験など研究開発分野での利用にとどまらず、医療で使われる核磁気共鳴画像法(MRI)、永久磁石の着磁など、生活のあらゆる場面で利用されます。強い磁場の発生は広く望まれていますが、例えば超伝導磁石(図1①)は線材の特性上20テスラを超える強磁場発生は困難です。一方、銅などの電気良導体を使った電磁石も電流印加に伴う発熱が大きく、強磁場発生には大規模な冷却設備が必要となります。この発熱を抑えるために、ごく短時間だけ大電流を流す「パルス磁場」が用いられ(図1②)、100テスラまでの強磁場が発生されてきました。しかしながら従来手法では、パルス磁場の発生時間は長くても100ミリ秒程度と非常に短いため、例えば時間のかかる測定等は応用不可能であり、強磁場は一部の研究開発分野でのみ活用されていました。1秒以上の磁場「ロングパルス磁場」発生は、大型の直流発電機を用いることで可能となりますが(図1③)、数十億円以上の膨大なコスト・装置設置に伴う広大な敷地面積が必須であり、世界でも3カ所しか整備されていません。

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図1 磁場発生手法による到達磁場と発生時間の模式図

このため研究グループでは、バックアップ電源や車両用電源として普及が進んでいる電気二重層キャパシタに着目しました。電気二重層キャパシタはスーパーキャパシタとも呼ばれ、安価で高いエネルギー密度を持つ電源として注目されています。ただし、セル一つあたりの耐電圧が低く、高電圧が必要なパルス磁場発生には利用されていませんでした。そこで本研究では336個の電気二重層キャパシタを直列接続した840ボルト高電圧キャパシタバンク、そして特殊な放電回路を製作しました。この開発により24.3テスラ、約1秒のロングパルス磁場の発生に成功しました。また数値計算により、30テスラ以上のロングパルス磁場が発生可能であることも明らかになりました。

研究グループが開発した新システムは、図2に示すように市販のラックに収められるコンパクトさでありながら、大型の直流電源に匹敵するエネルギーを扱え、また小型超伝導磁石と同程度に安価で、さらにヘリウムフリーです。これまで強磁場発生装置の導入が難しかった一般の研究所、産業分野等で広く利用されることが期待されます。

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図2 開発した磁場発生装置の大きさ。左から電磁石、キャパシタバンク(3ラック)、放電装置、充電装置、人間(身長170cm)

発表論文

(公開日: 2021年02月26日)