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パルス磁場中で瞬時に金属の電気抵抗を測る方法を開発

東京大学物性研究所の三田村裕幸助教、横浜国立大学大学院工学研究院の綿貫竜太特別研究教員およびヘルムホルツ研究機構ドレスデン強磁場研究所のエリック=カンパート元博士研究員、広島大学大学院先端理工系科学研究科の鬼丸孝博教授らは、改良された数値位相検波法(注1)の導入により、従来の想定よりも100分の1ほどの短時間で純良金属の磁気抵抗(注2)を正確に測定することに成功しました。純良金属の磁気抵抗測定は一般的に信号が小さいためノイズを除去するには長時間のデータ積算が必要だとされてきましたが、本研究で示される新しい信号処理技術により短い積分時間内で特定の周波数ノイズを除去することが可能になりました。また、この新しい信号処理技術は、現在放送や通信で主に使用されているOFDM方式(注3)よりも短い時間幅の情報で、さまざまな周波数成分から構成される信号の復調を可能にします。これは科学計測のみならず、ポスト5Gを含めたさまざまな通信技術において強力な信号処理方法になると期待されます。さらに超音波診断装置、MRIの高速・高解像度化や、自動運転技術に必要なセンサ類の感度、時間応答および混線防止性能の向上に大きく貢献すると考えられます。

本研究成果は米科学専門誌Review of Scientific Instrumentsオンライン版に、12月11日(金)に掲載されました。

fig1

図1 測定回路の模式図とデータ解析のフロー。市販の装置(PPMS, 米国カンタムデザイン社製)でおよそ1時間かかる測定(右端グラフの黄緑線)を1/90秒程度(右端グラフの青線)で実行できる。試料は白金線。

横浜国立大学発表プレスリリース

発表雑誌:

  • 雑誌名:Review of Scientific Instruments オンライン版12月11日掲載
  • 論文タイトル: Improved accuracy in high-frequency AC transport measurements in pulsed high magnetic fields
  • 著者: Hiroyuki Mitamura*, Ryuta Watanuki, Erik Kampert, Tobias Förster, Akira Matsuo, Takahiro Onimaru, Norimichi Onozaki, Yuta Amou, Kazuhei Wakiya, Keisuke T. Matsumoto, Isao Yamamoto, Kazuya Suzuki, Sergei Zherlitsyn, Joachim Wosnitza, Masashi Tokunaga, Koichi Kindo, and Toshiro Sakakibara
  • DOI番号:10.1063/5.0014986
  • アブストラクトURL:https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0014986

用語解説:

(注1)数値位相検波法:
交流信号の復調方法の一種である位相検波法を数値的に行うもの。アナログ的な手法による位相検波では、復調対象となる周波数成分と同じ周波数のサイン波あるいはコサイン波をダブルバランスドミキサやアナログ乗算器などの電気回路を用いて信号に掛け合わせたものをアナログフィルタで平滑するが、数値位相検波法では振動している信号をそのままAD変換器を通して数値化し、サイン波あるいはコサイン波の掛け合わせの処理は数値的に行う。平滑操作が信号の振動周期のちょうど整数倍の区間での積分で済むためアナログフィルタを用いた手法よりはるかに短い時間の積算時間で復調ができる。
(注2)磁気抵抗
金属や半導体、超伝導体などの電気抵抗の磁場に対する応答のことで物性物理学では最も基礎的な測定量の1つである。巨大磁気抵抗効果とは、この磁気抵抗の変化が非常に大きいものであり例えばハードディスクの磁気記録の読取センサーとして広く一般に実用化されている。
(注3)直交周波数分割多重方式(orthogonal frequency-division multiplexing, OFDM)
数値位相検波法の応用版で、いわゆるブロードバンド通信(複数の周波数で同時に信号を送受信する場合)において、各々の周波数成分を分離する手段の中で現在最も広く用いられている方式で、フーリエ級数展開の直交性を利用している。
(公開日: 2020年12月21日)