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第18回物性研究所 所長賞、李响助教、黒田健太助教、藤野智子助教ら7名に授与

3月3日、物性研究所にて第18回(令和2年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するISSP学術奨励賞には、山室研助教の李响氏近藤研助教の黒田健太氏が選ばれ、技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するISSP柏賞は森研究室助教の藤野智子氏、小林研究室修士課程2年の佐藤達郎氏ら7名にそれぞれ授与されました。

受賞講演は、コロナ感染症対応のために延期された昨年度の受賞者と併せて行われ、その模様はオンライン配信されました。

物性研究所 所長賞 歴代受賞者

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前列左から:森 初果 所長、李 响氏、黒田健太氏、藤野智子氏、佐藤達郎氏、後列左から:遠藤 翼氏、⽯塚悠也氏、⼤平理美氏、⽮⽥裕⾏氏、餅⽥ 円氏

ISSP学術奨励賞

李 响 氏「究極に均一で透明なゲルを創出」

ゼリーに代表されるゲル材料は溶液に溶けた高分子同士をピン留(架橋)することで作られます。この架橋反応は、溶液中で乱雑に動く高分子の間で確率論的に進むため、形成される高分子架橋構造は必然的に不均一になると考えられてきました。李助教らは、架橋前の高分子を溶液内で緻密に充填することで、溶液内の高分子が架橋前から架橋後まで一貫して空間を均一に埋め尽くす状態を作り出し、最終的な架橋構造が極めて均一なゲルを創出しました。溶液内の空間が常に均一に埋め尽くされた状態で進む架橋反応は、古典的なパーコレーション理論の中の「ボンドパーコレーション」と呼ばれ、概念としては1950年代から存在していましたが、本研究によって初めて実現されました。合成されたゲルの空間相関・時間相関を光散乱やX線散乱で評価した結果、空間不均一性を示す散乱光の干渉スポット(スペックル)は一切見らませんでした。また、これまで全てのゲルにおいて観測されていた異常な小角散乱は生じず、さらにはゲル化点の決定にも使われていた位置依存的な緩和挙動も一切観測されませんでした。これらの結果は、従来広く受け入れられてきたゲル材料の描像と全く異なります。本研究は、「ゲルは不均一なものである」という常識を覆し、ゲルという状態を再定義しました。また、提案した手法は、高分子の種類・反応様式に依存しないため、幅広い高分子種に適応でき、医学、薬学、化学、光学、電子工学など幅広い分野への波及効果が期待されます。

関連論文
  • “Polymer gel with a flexible and highly ordered three-dimensional network synthesized via bond percolation.”, X. Li, S. Nakagawa, Y. Tsuji, N. Watanabe, M. Shibayama, Science Advances. 5, eaax8647 (2019).
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黒田 健太 氏「角度分解光電子分光による強相関反強磁性体の電子構造の研究」

強相関電子系における局在電子と遍歴電子の相互作用は近藤効果や磁性と超伝導の競合など、様々な現象を生み出し、多くの研究者の興味の的となってきました。さらに最近では、トポロジーの概念の融合により、多彩な物性を生み出す舞台としてますます強相関反強磁性体の研究は活発化しています。その流れの中で黒田氏は、「悪魔の階段」と呼ばれる、あらゆる物質中で最も複雑な磁気転移現象を示すとされるCeSbを含めた一連のセリウムモノプニクタイド物質群、さらには反強磁性体としてゼロ磁場で初めて異常ホール効果を発現したMn3Snの電子構造を詳細に観察し、そららの特徴を解明してきました。CeSbでは、TN = 17K以下で7回も生じる磁気転移に伴い激変する電子構造を初めて詳細に観察することに成功しました[1]。また、セリウムモノプニクタイドのシリーズ結晶において、元素の種類によってスピン軌道相互作用(SOC)の大きさを制御できることに着目する研究から、SOCを関数とするトポロジカル電子相図を完成させました。その中でもCeBiは、バンド反転と共にトポロジカル相に転移し、対応するトポロジカル表面状態を観測することに成功しました[2]。また、Mn3Snについて、この物質がワイル磁性体の候補物質であった中で、直接バンド観察よりそれを実証することが求められていましたが、同氏は、様々な光エネルギーを用いた3次元電子構造の決定から、ワイル点を伴う特徴的な電子構造を見出すことでその実証に成功しました。

関連論文
  • [1] “Devil’s staircase transition of the electronic structures in CeSb.”, K. Kuroda et al., Nature Communications 11, 2888 (2020).
  • [2] “Experimental determination of the topological phase diagram in Cerium monopnictides.”, K. Kuroda et al., Physical Review Letters 120, 086402 [6 pages] (2018).
  • [3] “Evidence for magnetic Weyl fermions in a correlated metal”, K. Kuroda et al., Nature Materials 16, 1090 (2017).
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ISSP柏賞

物性研究所⼀般公開オンライン開催への貢献

令和2年度柏キャンパス⼀般公開は新型コロナウイルスの影響によりオンラインにより開催することになりました。物性研本棟をWeb内に再現した「バーチャル物性研」を構築し、その中で各研究室の展⽰を動画配信、ライブ中継などを⾏いました。参加者は「バーチャル物性研」の中を物性犬アバターとなって研究室を訪問し動画や講演を視聴したり、チャット機能を使って話をするなど、実際の一般公開のように楽しむことができます。その結果、10⽉24⽇を含めた前後合わせて2週間の公開期間中に、前年度と同程度の3800余名の方に参加いただくことができました。このバーチャル物性研は「学内広報 No.1540(2020.11.24)」の表紙を飾り学内にも広く知られたとともに、東⼤EMPにおいても物性研を紹介するツールとして、⼤変好評を得ました。また、今回作成したコンテンツは、今後の物性研究所の広報ツールとしても活⽤できます。

このような⾼度にWebを活⽤する情報発信は、⽇常的な研究活動を超えた様々な特化したスキルが必要であり、「バーチャル物性研」製作は、⼩林研究室の佐藤達郎氏、遠藤 翼氏、⽯塚悠也氏の3名が中⼼となり、試作を繰り返し⻑時間かけて完成に導きました。藤野氏は、企画募集および配信の調整・取りまとめを行い、餅⽥⽒は、Web公開での各素材提供、広報・周知活動をはじめ、当⽇のリアルタイムでのコンテンツ更新、動画配信などを行いました。⽮⽥⽒は、サーバーの管理等、様々なアクシデントに備えて準備し、時間的な厳しい制約のもとで、広報室と連携しながらライブ配信の設定・調整を⾏いました。⼤平⽒は、今回の異なる開催形態に伴い増⼤した事務作業の中⼼的な役割を担い、柏キャンパスおよび所内の委員会、各作業担当者、企画研究室との膨⼤な連絡・調整の対応をしました。

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(公開日: 2021年03月05日)