ISSP - The institute for Solid State Physics

物性研について
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所長室から
Director IYE Yasuhiro

物性研究所は東京大学附置の全国共同利用研究所として1957年に設立されて以来、物性科学における日本の中核的研究機関として活動を続けています。2000年に東京の六本木キャンパスから、本郷、駒場と並んで東京大学の3極構造をなす千葉県の柏キャンパスに移転した後、2004年には国立大学法人化によって大学の基本的仕組みが大きく変わり、また、2010年の共同利用・共同研究拠点制度の発足によって共同利用研究所の新しい枠組みが作られる中で、物性科学研究拠点として共同利用・共同研究活動を継続しています。

物性科学は、我々の身の回りにある物質の多様な性質を、そのミクロな構成要素である原子や電子の運動法則に基づいて解明する学問として発展してきました。そして、その知識をもとに、優れた性質をもつ新物質を化学的に合成し、あるいは物理的に原子層を積み重ねて新しい機能を示すナノメーターサイズの構造を作製するといった研究が進み、現在では物理学、化学、材料工学の境界を超える融合的な学問として大きな広がりを示しています。物性科学の大きな魅力は、物質中の原子・電子集団が示す新規現象の解明が人類の自然認識の深化をもたらすと同時に、社会的に重要な材料やデバイスの開発に貢献できるところにあります。今後、新しい物質や理論的アイデア、革新的な測定技術によって物性科学の対象が拡大していくことを念頭に、昨年、物性研究所では既存分野の枠を超えた二つの新しい研究グループ「機能物性グループ」と「量子物質グループ」を創設しました。前者の目的の一つは、さまざまな機能発現の舞台となる階層構造をもつ物質において、電子励起や化学反応などの動的過程を微視的に理解することであり、後者では、新規な量子現象を示す物質やナノ構造において、新たな自然概念の確立や革新的機能の実現を目指します。

新しい物質やその複合体の性質を解明するには、強磁場や高圧力などの極限的環境や、大型の最先端計測装置、スーパーコンピュータなどの設備も重要な役割を担います。物性研究所では、これらの先端的技術・設備を開発し、共同利用・共同研究に供するよう努めています。強磁場については、電磁濃縮法によって生成される1000テスラ破壊型短時間パルス磁場、およびフライホィール電源を用いて生成される100テスラ非破壊型長時間パルス磁場において、精密な物性実験を行う計画が進行しています。パルス中性子に関しては、茨城県東海村のJ-PARCにKEKと共同で高分解能非弾性散乱分光器を建設し、共同利用実験を行っています。しかし、定常中性子ビームを供給するJRR-3原子炉は2011年3月の大震災以後停止しており、一刻も早い再稼働が待ち望まれています。計算物質科学については、物性研究所のスーパーコンピュータを用いた共同利用の推進に加えて、「京」スーパーコンピュータの後継機であるポスト「京」を利用する重点課題「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」等のプロジェクト代表機関として、計算による物質設計、物質科学のための計算手法・ソフトウェアの開発、およびその利用普及活動を行っています。光を用いた物質科学については、兵庫県の播磨にある放射光施設SPring-8の東大アウトステーション物質科学ビームライン(BL07)に軟X線分光実験装置を建設し、共同研究を推進しています。また、柏では極限的なコヒーレントレーザー光源開発、およびこれを用いた最先端の分光実験が行われており、光物質科学のフロンティアが開かれつつあります。

今年創立60年を迎える物性研究所では、これからも物性科学の最先端を開拓し、国内外の物性科学研究者に最高水準の共同研究拠点を提供していきます。皆様にはこれまでと変わらぬご理解、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2017年4月
瀧川 仁