小森研の服部卓磨氏、ユーリッヒ研究センター滞在報告
物性研究所小森研究室の服部卓磨氏が物性研究所海外学生派遣プログラムを利用し、9月26日から12月21日にかけてドイツのユーリッヒにあるピーターグリュンブルグ研究所に滞在しました。磁性薄膜上に吸着した分子を利用した単一分子のスピンフィルター素子の実現を目的に、原子レベルで観察可能な走査トンネル顕微鏡を用いて、磁性膜上の分子を観察、研究を行いました。
このプログラムは2017年度から始まったもので、海外での共同研究を通じて、豊かな経験を持った国際的な活躍が期待できる人材を育成することを目的として、大学院生を海外の研究機関に数ヶ月間派遣しています。
小森研究室D2 服部 卓磨
活動内容
スピンフィルター素子は、一方のスピンの向きを持った電子のみを透過させる素子です。近年、強磁性膜上の単一分子が、スピンフィルター素子として利用できることが理論的に予測されています。そこで、この理論予測を元にCu(111)基板上の強磁性Co島上に吸着した有機分子の走査トンネル顕微鏡(STM)観察を行い、分子のスピン偏極度の変化の直接観察を試みました。STM観察を行うと強磁性Co島上に吸着した分子の見え方が非磁性Cu基板上の分子とは異なっており、電子状態の違いが示唆されました。そこで、走査トンネル分光によりCo島上の分子の局所電子状態を測定すると、Co島上では、Coのdバンドピークの位置に電子状態が現れることがわかり、Co島上のdバントと分子の軌道の混成で分子の電子状態のスピン偏極が期待される結果となりました。

私がユーリッヒに行ったのは9月下旬から12月までと徐々に寒くなる季節でしたが、今年は例年よりも暖かったようです。また例年に比べて雪の量も少なかったようです。このような気候の変動や、エネルギー問題など、環境に対する意識が強い国だと思いました。また、12月のクリスマスの時期には、ドイツの人が、クリスマスという一年で最も重要な季節を迎える様子を体感しました。アーヘンやケルン近隣のクリスマスマーケットを訪れて、ホットワインやソーセージをよく食べ楽しみました。


今回の滞在ではSTMを用いた分子の電子状態測定を行ってきましたが、ピーターグリュンブルグ研究所では、分子を合成するグループ、分子の測定するグループ、さらには出てきた結果を計算するグループが一緒になって研究を行っており、非常に強い研究体制だと思いました。そのため、有機化学者や、理論科学者とも議論する機会もあり、とても楽しかったです。今回のSTMによる分子の測定のやり方やノウハウを今後の研究に活かしていきたいと思います。
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