押川研の小林 良平氏、シカゴ大学滞在報告
物性研究所押川研究室の小林良平氏が物性研究所海外学生派遣プログラムを利用し米国シカゴ大学へ1月3日から3月6日まで滞在、トポロジカル相の理論に関する共同研究を行いました。
このプログラムは2017年度から始まったもので、海外での共同研究を通じて、豊かな経験を持った国際的な活躍が期待できる人材を育成することを目的として、大学院生を海外の研究機関に数ヶ月間派遣しています。
押川研究室M1 小林良平
概要
シカゴ大学で、高次形式対称性を持つ系における量子多体系に関する共同研究に取り組み、高次形式対称性に基づいたLieb-Schultz-Mattis (LSM) 定理の定式化を完成させた。加えて、フィリングが1/2の量子ホール系において実現される非可換エニオン相 (particle-hole symmetric Pfaffian state) に関する共同研究を笠真生准教授と始めた。
活動内容
LSM定理は格子模型における並進対称性と大域的U(1)対称性が存在すれば、量子多体系における低エネルギー励起の性質に厳しい制限が課される事を主張する。従来のLSM定理は電荷の保存に伴う大域的U(1)対称性が存在するときにのみ適用可能であり、例えば、有効的にゲージ場の自由度のみを含む格子ゲージ理論で記述される量子ダイマー模型などの模型群には適用することができないが、ゲージ理論が高次形式対称性と呼ばれる一般化された大域的対称性を持つことから、格子ゲージ理論で記述される模型に対して適用可能な形でLSM定理を一般化することができた。我々の定理は例えば、チェッカーボード格子やパイロクロア格子上の量子ダイマー模型やループ模型をはじめとした物性系の低エネルギーにおける性質に厳しい制限を与える主張となっている。この成果は近日中に論文として公開される予定である。

シカゴ大学のように、トポロジカル相の理論的研究における海外の第一人者が集結する環境は本研究の遂行にとって理想的であった。今後の展開としては、我々が提案した高次形式対称性に関するLSM定理を用いて、高次形式対称性の電荷のフィリングが分数的であることによって要請されるトポロジカル縮退を持つようなトポロジカル秩序相やギャップレス相を、実現可能な格子系で構成することが期待される。

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