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第20回物性研究所 所長賞を、池田 達彦氏、今城 周作氏、中性子科学研究施設安全管理統括チームと共同利用支援チームに授与

3月1日、物性研究所にて第20回(令和4年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するISSP学術奨励賞には、元・物性理論研究部門の池田 達彦 助教(現:理化学研究所 研究員)と金道研究室の今城 周作 特任助教が選ばれました。そして技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するISSP柏賞は附属中性子科学研究施設安全管理統括チームと共同利用支援チームに授与されました。

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前列左から:森 初果所長、池田 達彦氏、今城 周作氏、川名 大地氏、杉浦 良介氏
後列左から:三浦 幸栄氏、鈴木 文博氏、吉信 淳副所長

物性研究所 所長賞 歴代受賞者

ISSP学術奨励賞

池田 達彦氏「非平衡量子多体系の基礎理論の構築と応用」
池田 達彦氏

池田氏は、レーザーなどによるエネルギー注入と外部環境へのエネルギー散逸がバランスした非平衡定常状態の普遍的な性質について量子マスター方程式とフロケ理論を用いた解析的な理論を構築しました[1]。この理論の適用範囲は広く、散逸の効果により初めて発現する物理現象を予言したことも注目を集めています。池田氏は同様の視点から多くの理論研究を展開しており、固体からの高次高調波発生(HHG)プラトーついてのスケーリング則[2]、および、ハバード模型における時間結晶[3]の研究がその代表例となっています。これらの研究では、解析的手法による理論構築が極めて重要な役割を果たしており、そのセンス・着眼点の良さが際立っています。

同氏は、以上の業績を含む数多くの包括的な理論研究を行うとともに実験グループとの共同研究も積極的に行っています。特にレーザー電場照射下のディラック半金属で発見された非常に高効率のHHG放射については、その原因が電場加速による非平衡電子分布の振動現象にあることを発見しました[4]。また、フロケ理論を用いてディラック半金属における誘導レイリー散乱を説明しています[5]。以上のように、卓越した基礎理論研究を行っているのみならず、実験・理論共同プロジェクトにも積極的に取り組み顕著な成果を上げたことが評価されました。

  • [1] T. N. Ikeda and M. Sato, Science Advances 6, eabb4019 (2020).
  • [2] T. N. Ikeda, K. Chinzei, and H. Tsunetsugu, Phys. Rev. A 98, 063426 (2018).
  • [3] K. Chinzei and T. N. Ikeda, Phys. Rev. Lett. 125, 060601 (2020).
  • [4] B. Cheng, N. Kanda, T. N Ikeda, T. Matsuda, P. Xia, T. Schumann, S. Stemmer, J. Itatani, NP Armitage, R. Matsunaga, Phys. Rev. Lett. 124, 117402 (2020).
  • [5] Y. Murotani, N. Kanda, T. N Ikeda, T. Matsuda, M. Goyal, J. Yoshinobu, Y. Kobayashi, S. Stemmer, R. Matsunaga, Phys. Rev. Lett. 129, 207402 (2022).
今城 周作氏「ロングパルス強磁場を活用した新たな研究分野の開拓」
今城 周作氏

今城氏は、ロングパルス磁場の利点を活かした測定装置の改良・開発[2]によって、分子性化合物に対して多くのパルス磁場中精密物性測定を可能とし、電気抵抗や磁化に加え比熱・超音波・磁場侵入長と多岐に渡る測定手法で研究を行い、分子性導体の強磁場領域の物理を発展させてきました。特に分子性超伝導の研究に関しては著しい業績を挙げ、有機分子に特徴的な電荷揺らぎから生じる超伝導[8]、反強磁性磁気揺らぎが媒介する超伝導の対称性決定[6]、量子スピン液体から生じる異常な超伝導相図の決定[3]という幅広い課題範囲で成果を残しています。また、強磁場でしか現れないFFLO 状態という特殊な超伝導に関しては、新規候補物質の発見[9]、熱力学相図の決定[5,7]、世界初の空間変調性の観測[1]により、他分野でも注目集めるような水準まで研究領域を深化させました。

また自身の研究だけでなく、有機化合物を扱う物理・化学分野の研究者を新規にパルス強磁場研究へ繋ぎ、多くの物性研の共同利用へ発展させました。物性研におけるパルス磁場・分子性導体の研究分野を開拓し、量・質ともに顕著な功績をあげました。

  • [1] S. Imajo et al., Nat. Commun. 13, 5590 (2022).
  • [2] S. Imajo et al., Rev. Sci. Instrum. 92, 043901, (2021).
  • [3] S. Imajo et al., Phys. Rev. Research. 3, 033026 (2021).
  • [4] S. Imajo et al., Phys. Rev. B 103, L201117 (2021).
  • [5] S. Imajo et al., Phys. Rev. B 103, L220501 (2021).
  • [6] S. Imajo, K. Kindo, and Y. Nakazawa, Phys. Rev. B 103, L060508 (2021).
  • [7] S. Imajo and K. Kindo, Crystals 11, 1358 (2021).
  • [8] S. Imajo et al., Phys. Rev. Lett. 125, 177002 (2020).
  • [9] S. Imajo, Y. Nakazawa, and K. Kindo, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 123704 (2018).

ISSP柏賞

「JRR-3全国共同利用の再開にかかわる新体制の構築と業務」
附属中性子科学研究施設安全管理統括チーム
技術職員(浅見 俊夫氏、杉浦 良介氏、川名 大地氏)、技術補佐員(篠崎 知子氏)、派遣技術職員(鈴木 文博氏)

および

共同利用支援チーム
事務補佐員(大島 あかね氏、杉川 由香里氏、宇野 有希子氏)、係長 三浦 幸栄氏
杉浦 良介氏
川名 大地氏

2011年の東日本震災以来停止していたJRR-3は2021年2月26日から運転を再開し、中性子科学研究施設は同年7月12日からJRR-3の全国共同利用を再開しました。この再開にあたり、中性子科学研究施設の安全管理統括チームは、JRR-3の施設利用管理課と根気強く検討を重ね、現在の安全管理体制を構築しました。10年前より格段に厳しくなった安全管理基準をクリアし、安全に関わる教育資料の作成、試料・機器の持込申請の審査、リスクアセスメントシートの作成といった環境の整備、そして供用利用装置管理者の立場で装置担当者(各装置グループのスタッフ)と供用利用者(実際の実験者)を監督しながら、日々の安全管理と実験のサポートを行っています。一方、共同利用支援チームは共同利用に伴う各種申請業務をweb上で処理できるシステムを構築し、業務効率を画期的に向上させました。各種申請書類の受付、来所の受付、OSLバッジや入構証の申請、旅費手続き、宿泊の予約・受付、成果登録など、従前はメールベースで行われていましたが、システムの構築・導入により、業務効率化および供用利用者に対するユーザビリティを向上させました。

両チームの貢献により、10年ぶりの共同利用に加えてコロナ禍に関わる利用者の管理が求められる厳しい条件の中、運転再開、2022年度には震災前と同程度の運転をスムーズに遂行し、利用者の研究成果に繋げることができました。

(公開日: 2023年03月06日)