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出倉駿 特任助教(森研)が物性科学領域横断研究会 の最優秀若手奨励賞を受賞

森研究室の出倉駿 特任助教が第15回物性科学領域横断研究会 (領域合同研究会) の最優秀若手奨励賞を受賞しました。この賞は、物性物理の将来を担う若手研究者の研究を奨励し、今後の発展研究への動機付けと物性科学の5-10年後のさらなる活況に貢献する人財育成を目的に、同研究会における若手講演者の中から最も優れた発表を行った者に授与されます。

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受賞対象となった発表タイトルは「分子の内部自由度を活用した無水有機プロトン伝導体の開拓」です。

水素から電気エネルギーを取り出す燃料電池の重要な構成要素として、水素イオン(H+: プロトン)を高効率に伝導する、固体の“プロトン伝導体”の開発が盛んに行われています。そこではプロトン伝導体の中を単位時間あたりどのくらいの量のプロトンが流れるかの指標である“プロトン伝導度”が燃料電池の出力特性に直接的に影響するため、高いプロトン伝導度(超プロトン伝導:> 10–3 S/cm)を達成することが当該分野での物質開発における主な指標となっています。現在、超プロトン伝導性を示すことが報告されている物質の多くが、加湿によって水分子を取り込むことで初めてプロトン伝導性を示す有機ポリマーや多孔性材料です。しかしながら (1)加湿が不可欠であり、また (2) 加湿し続けたとしても100°C程度で取り込んだ水が脱離してしまいプロトン伝導性を失う、という問題が実用範囲を大きく狭めており、無加湿でもプロトン伝導性を示す“無水プロトン伝導体”の開発が求められています。これまでに多数の無水プロトン伝導体が報告されてきましたが、そのほとんどが有機ポリマーにリン酸等の酸を混ぜた混合物であったため、プロトン伝導の原理が解明できず、無水超プロトン伝導体の設計指針は得られていませんでした。

そのようななかで出倉氏は、酸や塩基の分子が規則的に並んだ単結晶を対象に、プロトン伝導度とその伝導機構の理解を目指した基礎的な研究を推進してきました。先行研究では水素結合ネットワークをプロトンが渡り歩くことで伝導する”Grotthuss機構”と呼ばれる機構が提案されています。そこでは分子が左から受け取ったプロトンを右に渡す必要がありますが、ここで水分子や無機物質には無い分子性固体ならではの“分子回転運動”や“プロトン互変異性”などの分子内自由度を活かせば、無水でも超プロトン伝導を達成する指針が得られると考えました。出倉氏はイミダゾールとリン酸からなる分子性結晶において、イミダゾール分子が室温程度の温度であっても回転運動に由来する無秩序配向状態を示しており、これによって既報のリン酸のみが寄与するプロトン伝導体よりも圧倒的に高い超プロトン伝導を示すことを見出しました。一方で、1,2,3-トリアゾールという分子とリン酸を組み合わせた分子性結晶では、トリアゾール分子上をプロトンが渡り歩く“プロトン互変異性”によって大きな分子運動を伴わずとも超プロトン伝導性を示すことを見出し、無水超プロトン伝導体の新しい設計指針を提案しました。

上記の結果をもとに、分子の個性を活かしながら分子性単結晶という機構解明に理想的な系を舞台にして根底に横たわる学理を追究することで、無加湿燃料電池等の実用に足る次世代材料の開発に繋がるだけでなく、固体中水素にまつわる物性科学の未到領域の開拓にも繋がると期待されます。

関連論文

  1. Y. Sunairi, S. Dekura, A. Ueda, T. Ida, M. Mizuno, H. Mori*, J. Phys. Soc. Jpn., 89, 051008 (2020).
  2. Y. Hori*, S. Dekura*, Y. Sunairi, T. Ida, M. Mizuno, H. Mori, Y. Shigeta, J. Phys. Chem. Lett., 12, 5390–5394 (2021).
  3. S. Dekura*, Y. Sunairi, K. Okamoto, F. Takeiri, G. Kobayashi, Y. Hori*, Y. Shigeta, H. Mori*, Solid State Ionics, 372, 115775 (2021).

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(公開日: 2021年12月21日)