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有機固体電解質中のプロトン伝導メカニズムを解明 〜高効率な燃料電池の設計指針に〜

筑波大学計算科学研究センターの堀 優太 助教、東京大学物性研究所の出倉 駿 特任助教、金沢大学理工研究域物質化学系の井田 朋智 准教授の研究グループは、水分子を含まない無水プロトン伝導物質として、コハク酸とイミダゾールから成るプロトン(H+)伝導性有機結晶(コハク酸イミダゾリウム)を対象に、分子中のプロトンの位置や動きを可視化し、分子レベルでのプロトン伝導メカニズムを解明することに成功しました。理論計算と実験を組み合わせ、結晶内のプロトン伝導が関わる「分子構造変化」、「分子運動」、「プロトン移動」の関係性を調べたところ、結晶内での整列された分子構造中で、イミダゾール分子の回転運動とイミダゾール–コハク酸間のプロトン移動が連動することによって、結晶内で効率的にプロトンが輸送していく様子が明らかになりました。

水素エネルギーを利用する燃料電池は、電解質上をプロトンが伝導することにより動作するもので、効率的なクリーンエネルギーシステムとして注目されています。しかしプロトンは非常に小さく軽いため、位置や動きを実験的に観測するのが難しく、伝導メカニズムはよく分かっていませんでした。

今回の結果から、燃料電池の固体電解質材料として、高いプロトン伝導性を示す無水プロトン伝導物質を設計するためには、分子の回転運動やプロトン移動を効率的に引き起こす材料の探索が重要であることが示唆されました。

本成果は、米国科学誌The Journal of Physical Chemistry Lettersに6月3日付オンライン掲載されました。

筑波大学のプレスリリース

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図1 コハク酸イミダゾリウム結晶中のプロトン伝導の様子
コハク酸イミダゾリウム結晶は、コハク酸分子とイミダゾール分子によって構成される。イミダゾール分子の回転によって作られる通路に沿ってプロトンが移動する。赤は酸素、青が窒素、灰色が炭素、白が水素を表す。
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図2 ポテンシャルエネルギーダイアグラム(グラフ部分)および、イミダゾール分子の回転とプロトン移動の関係

掲載論文:

  • 題名:Proton Conduction Mechanism for Anhydrous Imidazolium Hydrogen Succinate Based on Local Structures and Molecular Dynamics
  • 著者名:堀 優太(筑波大学)、出倉 駿(東京大学)、砂入 允哉(東京大学)、井田 朋智(金沢大学)、水野 元博(金沢大学)、森 初果(東京大学)、重田 育照(筑波大学)
  • 掲載紙:The Journal of Physical Chemistry Letters
  • 掲載日:2021年6月3日
  • DOI:10.1021/acs.jpclett.1c01280

用語解説:

無水プロトン伝導物質:
水分子を含まない、外部電場を印加したときにプロトンが長距離に伝導する物質。
(公開日: 2021年06月08日)