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大谷 義近教授、嶽山 正二郎名誉教授、橘高 俊一郎元助教、パルス超強磁場開発チーム文部科学大臣表彰を受賞

東京大学物性研究所の大谷 義近教授、嶽山 正二郎名誉教授が令和2年度文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)を、橘高 俊一郎元助教(榊原研、現:中央大学 准教授)が若手科学者賞を、パルス超強磁場開発チームが研究支援賞を受賞しました。科学技術賞(研究部門)は、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者に、若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に、研究支援賞は高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績があった者に授与されるものです。

今年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、文科省にて行われる予定の授与式は中止となりました。

大谷教授は、スピン流・電流相互変換の高効率化、高機能化の観点から、強磁性体のスピン揺らぎ、超伝導体中の準粒子、界面・表面の電子状態や新物質ワイル反強磁性体の電子状態を利用する方法を実験と理論の両面から確かめ、新奇スピン変換物性を開拓すると共に発現機構を明らかにしています。例えば、酸化物絶縁体界面やトポロジカル絶縁体表面状態を用いることで、高効率なスピン流・電流相互変換の観測に成功した他、反強磁性体の電子構造がスピン配列の向きに依存することに着目し、内因性スピンホール効果のスピン配列方向依存性から新奇な磁気スピンホール効果を発見しました。

これらは、スピン変換素子の設計指針に対する知見を与えるもので、多様な物質と界面のスピン流・電流相互変換を利用した素子設計自由度を広げたことにより高効率なスピン流生成とスピン偏極方向の制御が可能となりました。これにより反強磁性体のスピントロニクス素子への応用を大きく進展させました。

  • “Quasiparticle-mediated spin Hall effect in a superconductor” Nature Materials 14, 675-678(2015)
  • “Magnetic and magnetic inverse spin Hall effects in a non-collinear antiferromagnet” Nature 565, 627-630(2019)

嶽山名誉教授は、電磁濃縮法による1000テスラの強力な超磁場発生装置の開発を行い、独自のコイルを用いて世界記録1200テスラを達成し、1000テスラを超える超強磁場生成技術を完成させました。高効率の電磁濃縮磁場発生コイルと超磁場発生装置により、物性測定に必要な磁場の時間及び空間の制御性、再現性を格段に向上させ、それまで電磁濃縮法では600テスラが限界であった世界記録を大幅に更新しました。加えて、このような極限超強磁場下で物質の電気、光学、磁気的な精密物性計測技術も確立しました。

これにより、1000 テスラ超強磁場領域での物質の未知の電子状態の解明が可能となったことで磁性体、超伝導体、ナノ物質から、広く生体物質などへの物性解明にも応用され、将来の物質科学の発展に寄与することが期待されます。

  • “A copper-lined magnet coil with maximum field of 700T for electromagnetic flux compression” Journal of Physics. D: Applied Physics 44, 425003 (2011)
  • “Record indoor magnetic field of 1200 T generated by electromagnetic flux-compression” Review of Scientific Instruments 89, 095106-095107(2018)

橘高氏は、0.1 K 以下まで磁場方位を精密制御しながら比熱や磁化を測定できる独自の装置を開発し、非従来型超伝導体のギャップ対称性を特定できるバルクの実験手法を確立しました。更に、それらを様々な超伝導体の研究に応用して実験データを数多く提供し、特にCeCu2Si2とSr2RuO4においては長年の定説に一石を投じる独創的な成果をあげました。これは、近年多数発見されている、従来のBCS 理論では説明できないエキゾチックな超伝導体の新奇な超伝導メカニズム解明を大きく進めるものです。

これらエキゾチックな超伝導体は、超伝導転移温度が1 K以下と低いことが多く、超伝導ギャップ対称性の特定が困難でした。本研究成果は、超伝導研究を大きく進展させるだけでなく、回転磁場下の熱測定法の高度化によって強相関電子系分野の発展にも多大な貢献をもたらすものと期待されます。

  • “Searching for gap zeros in Sr2RuO4 via field-angle-dependent specific-heat measuremen” Journal of the Physical Society of Japan 87, 093703 (2018)
  • “Multiband superconductivity with unexpected deficiency of nodal quasiparticles in CeCu2Si2Physical Review Letters 112, 067002 (2014)

川口氏は、強磁場下で精密物性測定を可能にする非破壊型コイルの開発を支援し、単パルスで世界最高となる85テスラの発生に貢献しています。澤部氏は、室内世界最高となる1200テスラの超強磁場発生(上記、科学技術賞)に必要なパルス高電流電源および磁場発生コイルの技術開発を担っています。松尾氏は、超精密実験を可能にする長時間パルス強磁場の発生を実現させました。物性研には、非破壊型コイル・破壊型コイル・長時間パルスと、種類の異なる強磁場発生装置があり、それぞれに性能・特性の評価や条件の最適化などが必要で、技術者の高い専門性と技術が求められています。物性研は、共同利用及び共同研究で研究者が必要とする磁場環境を提供し、日本の物性研究の発展に貢献しています。パルス超強磁場開発チームの貢献は、強磁場発生用コイルを様々な形で提供することによって、物性研究のみならず化学や生物の分野への発展や応用研究につながる展開にも寄与しています。

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(公開日: 2020年04月14日)