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柴山充弘教授、三輪真嗣准教授、MateriApps開発チーム文部科学大臣表彰を受賞

東京大学物性研究所の柴山充弘教授が平成31年度文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)、MateriApps開発チームが科学技術賞(科学技術振興部門)を、三輪真嗣准教授が若手科学者賞を受賞しました。科学技術賞(研究部門)は、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者に、科学技術賞(科学技術振興部門)は科学技術の振興に寄与する活動を行った者に、
若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。

受賞者

左から:MateriApps開発チーム(加藤岳生准教授、本山裕一特任研究員、三澤貴宏特任研究員、藤堂眞治教授)、柴山充弘教授、三輪真嗣准教授

受賞対象となった研究は以下の通りです。

科学技術賞
研究部門:柴山 充弘 教授
散乱法による高分子ゲル の構造物性研究
科学技術振興部門:藤堂 眞治教授、加藤 岳生 准教授、三澤 貴宏 特任研究員、本山 裕一 特任研究員、川島 直輝 教授
計算物質科学ソフトウェアの開発技術の振興
若手科学者賞
三輪 真嗣 准教授
ナノ磁性体物性の電気的制御に関する研究

柴山充弘教授

柴山教授は、高分子ゲルの構造をX線・中性子散乱により、構造および変形メカニズムを解明してきました。高分子ゲルはドラッグデリバリーなどといった先端科学材料の一つであり、化粧品や日用品など日常生活を支える必須材料でもあります。しかし、高分子ゲルを構成する網目構造は不均一でその制御が難しく、力学強度や透明性に欠けるなど、多くの問題や欠陥を抱えていました。

同氏は、これまで理解に限界があったゲルの網目構造の不均一性の分類と起源の解明、非接触ゲル化点決定法の開発、ゲルの変形メカニズムの解明などを、光・X線・中性子散乱などといった散乱法ならではの測定・観測技法の開発・提案により、これらの問題を解決しました。これにより、ゲル化過程にある液体に単に光を当てるだけでゲル化点が決定できるようになりました。また、X線・中性子散乱によりさまざまなタイプの高強度・高強力ゲルの構造および変形メカニズムが初めて解明されました。さらに、非常に均一性の高い高分子ゲルの作成法も開発されました。

このように、ゲルの本質的理解に基づいた新規高性能・高機能性ゲルの開発を提案し、高品質ゲルの創成と品質管理、臨床応用にも適用可能な、広い意味での「ゲル科学」の発展に寄与したことが評価されました。

  • Spatial inhomogeneity and dynamic fluctuations of polymer gels, Macromolecular Chemistry and Physics, 199, 1-30 (1998).
  • Gel formation analyses by dynamic light scattering, Bull. Chem. Soc. Jpn., 75, 641-659 (2002).
  • Gel point determination of gelatin hydrogels by dynamic light scattering and rheological measurements, Phys. Rev. E, 76, 30401 (2007).
  • Small-angle neutron scattering on polymer gels: phase behavior, inhomogeneities and deformation mechanisms, Polym. J., 43, 18-34, (2011).
  • Amoeba-like self-oscillating polymeric fluids with autonomous sol-gel transition”, Nat. Commun., 8, 15862(1)-(8) (2017).
  • Fast-forming hydrogel with ultralow polymeric content as an artificial vitreous body, Nature Biomed. Eng., 1, 44(1)-44(7) (2017).
  • Gels: From Soft Matter to BioMatter, Ind. Eng. Chem. Res., 57, 1121-1128 (2018).

MateriApps

物性研究所を中心とするMateriApps開発チームは、2013年から物質科学シミュレーションのポータルサイトMateriAppsや統合パッケージMateriApps LIVE!の開発に取り組んできました。現代科学技術の基礎である物質科学の研究にシミュレーションは必要不可欠なツールとなっており、そのためのアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)が国内外で数多く開発されています。しかし、目的に適したアプリを探すことや、アプリを使い始めるためのインストールや入力ファイルの準備も大きなハードルとなっていました。物性研究所を中心とする開発チームは、2013年から物質科学シミュレーションのポータルサイトMateriAppsや統合パッケージMateriApps LIVE!を開発しました。

MateriAppsには250以上のアプリの情報が日本語と英語により収録されており、物質科学シミュレーションのポータルサイトとして、世界的にみても最大規模のものとなっています。アプリは計算手法や利用事例などと紐付けられているため、ユーザは「やりたいこと」から効率的にアプリを検索できます。また、MateriApps LIVE!は、代表的な計算物質科学のアプリ、OS (Debian GNU/Linux)、エディタ、可視化ツールなどを収めた統合パッケージです。MateriApps LIVE!はWeb上で公開されており、誰でも無料で利用することが可能となっています。MateriApps LIVE!を用いることで、ユーザはインストール作業なしにすぐにアプリを試すことができるのが大きな特徴であり、講習会や講義などで幅広く利用されています。

また、MateriAppsとMateriApps LIVE!は、アプリの開発者支援やアプリの普及に関しても、国内で開発された計算物質科学アプリの存在感の向上に貢献するとともに、「京」や物性研究所のスーパーコンピュータなどの最先端の大型計算機を用いて革新的な物質科学シミュレーションを行う人材の育成にも寄与しています。これら一連の活動を通じて計算科学技術の振興に貢献したことで今回の受賞にいたりました。

MateriApps開発は、5名の受賞者に加えて、五十嵐亮 (科学計算総合研究所)、井戸康太 (東京大学物性研究所 特任研究員)、笠松秀輔 (山形大学学術研究院 助教)、古宇田光 (東京大学物性研究所 シニアURA)、小西優祐 (株式会社アカデメイア)、常行真司 (東京大学理学系研究科 教授)、寺田弥生 (東北大学 金属材料研究所)、野田真史 (筑波大学 計算科学研究センター)、吉澤香奈子 (高度情報科学技術研究機構)、吉見一慶 (東京大学物性研究所 特任研究員)、ほか多くの協力により開発されました。


三輪准教授

三輪准教授はスピントロニクスと呼ばれる新しい科学技術分野を開拓してきました。スピントロニクスデバイスの開発ではナノサイズの磁性体(磁石)における磁極方向をいかに効率よく制御するかが重要です。産業革命以来、磁極制御には電磁誘導が用いられて来ましたが、2000年にエネルギー消費が小さなスピン流制御が実証されました。そして最近では電気磁気効果を利用した電界磁極制御に期待が集まっています。この潮流の中で三輪准教授は金属の原子層成長技術を駆使して特徴的な異種材料接合を有する新物質を創成することにより、研究分野を開拓してきました。今回の受賞の対象となった主な業績は「スピン流の非線形効果を利用したスピントロニクスデバイスの高機能化」と「ナノ磁性体の電気磁気効果の機構解明」です。

同氏は外場に敏感に応答するスピントロニクスデバイス用の磁気セルを開発し、スピン流の非線形効果を利用してスピントロニクスデバイスの高感度なマイクロ波検波を実証しました。さらにスピントロニクスデバイスの研究に放射光分光を適用し、電気磁気効果の機構が原子軌道の隠れた秩序である多極子自由度の誘起にあることを発見しました。本研究成果はスピントロニクスデバイスの応用に期待を与え、実応用に必要な機能性材料の設計指針として役立つと期待されています。

  • Perpendicular magnetic anisotropy and its electric field-induced change at metal-dielectric interfaces, J. Phys. D: Appl. Phys. 52, 063001 (2019).
  • Electric-field-induced changes of magnetic moments and magnetocrystalline anisotropy in ultrathin cobalt films, Phys. Rev. B 96, 220412 (2017).
  • Strong bias effect on voltage-driven torque at epitaxial Fe-MgO interface, Phys. Rev. X 7, 031018 (2017).
  • Voltage controlled interfacial magnetism through platinum orbits, Nat. Commun. 8, 15848 (2017)
  • Highly sensitive nanoscale spin-torque diode, Nat. Mater. 13, 50 (2014).
(公開日: 2019年04月22日)