Home >  ニュース > 山田 昌彦氏(押川研D3)がMERIT Awardを受賞

山田 昌彦氏(押川研D3)がMERIT Awardを受賞

押川研究室の山田 昌彦氏(D3)が、MERIT Awardを受賞しました。MERIT(統合物質科学リーダー養成プログラム)は、最先端の物質科学研究を基盤として、分野を越えた俯瞰力と柔軟性、知を創造し活用する力、広い視野と高い倫理性を併せ持ち、社会の持続的発展に貢献する博士を育成することを目的としたプログラムであり、この賞は特に優秀な活動を実施したMERIT生に授与されました。

受賞対象となった研究は「量子スピン液体の理論研究とMOF物性の開拓」です。

絶対零度においても、量子ゆらぎのために磁気秩序を持たない磁性体である「量子スピン液体」は現代における物性物理学の中心的な問題として活発に研究されている。多くの量子スピン液体が理論的には提案されているものの、現実の物質における量子スピン液体の実現は困難であり、有力な候補物質は少数にとどまっています。山田氏は、大学院在学中にMERIT生として、現実の物質における量子スピン液体の実現に大きな手掛かりとなる理論的研究を行いました。金属有機構造体(MOF)は近年、化学分野で非常に注目されている物質群であり、配位する有機分子の選択が無数に存在するため幅広いパラメータを実現可能ですが、化学分野のコミュニティで研究が進められていたため、量子磁性へのMOFの応用はほとんど考えられていませんでした。同氏は、遷移金属イオンを含むMOFの可能性に注目しただけではなく、キタエフの厳密解によって予言されていたキタエフスピン液体の実現が可能であることを指摘しました。さらに具体例として、ルテニウムとシュウ酸から構成されるMOFが有力な候補であることを第一原理電子状態計算によって示しました。これは、キタエフスピン液体の研究に新境地をもたらしただけではなく、MOFという新しい物質群を量子磁性の研究に活用する新たな方向性を開拓したものです。また、山田氏は、磁性体において近似的なSU(4)対称性が自然に出現する新たな機構を理論的に提案しました。山田氏は蜂の巣格子状の構造を持つα-ZrCl3の電子状態の模型において磁性体スピン軌道相互作用が強い極限を考え、SU(4)はもちろん、スピンの回転対称性にあたるSU(2)対称性も全く持たないように見える有効模型を導出しましたが、この模型がゲージ変換によってSU(4)対称な模型に帰着することを示しました。すなわち、同氏はSU(4)という高い対称性が創発する美しい機構を新たに提案し、この高いSU(4)による量子スピン液体(量子スピン・軌道液体)が実現する可能性を提案しました。これらの理論的な研究は、量子スピン液体の現実の物質における実現に新たな可能性を開拓したものです。

関連論文

関連ページ

(公開日: 2020年04月10日)