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押川正毅教授が米国物理学会 (APS) フェローに選出

物性研究所量子物質研究グループの押川正毅教授が、物性物理学部門(Division of Condensed Matter Physics)からの推薦により、米国物理学会 (American Physical Society,APS) フェローに選出されました。これはAPS会員の中から、物理学の進歩に重要な貢献をなした人物が選出されるもので、東京大学からは、これまでに小柴昌俊 現・特別榮譽教授、五神真 現総長など11名が選出されています(選出時の所属)。

押川氏の選出理由は”For fundamental contributions to the theory of topology, dynamics, and order in quantum many body systems.”(量子多体系におけるトポロジー、ダイナミクス、および秩序の理論に対する基礎的な貢献)です。

押川氏は、S=1/2の量子スピン鎖について成立する「LSM定理」が、一般の量子多体系に拡張され、粒子密度の格子との不整合性から導かれる、非常に普遍的かつトポロジー的な制約であることを明らかにしました。また、固体電子論の基本的な結果であるラッティンジャーの定理とLSM定理との深い関係も明らかにし、トポロジーに基づく導出を与えました。これは、ラッティンジャーによる元の定理の適用が難しい非フェルミ液体への応用をもたらしています。

また、近年の物理学の発展は、その理解の基本となる「相の分類」や「秩序」にも視点の変革をもたらしています。トポロジカル絶縁体の発見は、より広い範囲の量子多体系における「対称性により保護されたトポロジカル相」(SPT相)の概念に導きました。同氏は、1990年代における先駆的な結果も活用し、SPT相の概念を確立することに貢献しました。現在SPT相の一般化や、それらの数学的な定式化は現在の量子統計力学や数理物理の中心的な分野の一つとなっています。

これらの他、分数電荷の創発とトポロジカル秩序の一般的な関係など、現代的な量子多体系の理論の基礎となる知見を得ており、量子スピン鎖の電子スピン共鳴(ESR)を場の理論のダイナミクスにより記述する新しい理論を定式化し、30年近く未解決だった実験結果を説明するとともに、新たな予言とその実験的確認をもたらしました。また、理論的な常識に反して実験的に見出された細管中の1次元的な液体ヘリウムの「超流動性」についても、1次元系の異常に遅い緩和を反映した動的な現象として場の理論に基づいて解明しました。これら量子多体系に関する普遍的な法則の発見、新たな概念の確立への貢献が評価されました。

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(公開日: 2019年09月26日)