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プラズモン励起で測る量子ホール効果のエッジ状態

物性研究所ナノスケール研究部門の遠藤彰助教、勝本信吾教授らの研究グループは、量子ホール効果を示している試料にて、試料端を形作る閉じ込めポテンシャルの形状を変化させることによって、エッジ・マグネトプラズモンの励起周波数が変化することを、マイクロ波透過率の測定およびマイクロ波照射による熱起電力の測定により高感度で検出しました。さらに測定結果を解析することにより、閉じ込めポテンシャル形状やエッジ状態の幅に関する情報を引き出すことが出来ることを明らかにしました。

本研究の結果は、量子ホールエッジ状態に関する基礎的な知見をもたらすとともに、「プラズモニクス」としてデバイス応用が考えられているプラズモンの制御への指針を与えることが期待されます。本成果は、日本物理学会が刊行する英文誌Journal of Physical Society of Japan (JPSJ)の6月号に掲載予定で(オンライン版では5月24日に公開済み)、JPSJ編集委員会において注目論文’Papers of Edtiors’ Choice’に選ばれました。

図 (a)マイクロ波透過率、および(b)熱起電力の周波数f –ゲートバイアスV g依存性
図 (a)マイクロ波透過率、および(b)熱起電力の周波数f –ゲートバイアスV g依存性

量子ホール効果は、絶縁体-半導体界面などの2次元電子系に、強い磁場をかけると、電子の軌道が量子化され、飛び飛びの値をとる現象です。この時、ホール抵抗はプランク定数と電気素量という基礎物理定数のみで決まり、非常に高い精度を持つため、抵抗標準として用いられています。量子ホール効果では、試料内部は局在状態(絶縁体)となり、試料端付近にのみ、エッジ状態とよばれる1次元的な電子の伝導チャンネルが形成されます。エッジ状態は一方通行で後方散乱が禁止されるため、散乱なしに電荷やスピンを伝搬させ得るチャンネルとしても注目され、応用を視野に入れた研究も行われています。

量子ホール効果を示す試料に比較的弱いマイクロ波を照射すると、電子の動けるエッジ状態にのみエッジ・マグネトプラズモンと呼ばれる電子系のプラズマ振動を励起することができます。同グループは、ガリウムヒ素系の半導体ヘテロ接合界面(GaAs/AlGaAs)に形成される2次元電子系の基板表面に配置したゲート電極に負バイアスを加えることによって、試料端の閉じ込めポテンシャルの形状を変化させました。そしてマイクロ波の透過率、およびマイクロ波加熱による熱起電力を測定、解析することにより閉じ込めポテンシャルの形状、エッジ状態の幅が変化し、その結果プラズモン励起周波数が変化していることを導き出しました。これは、エッジ状態の変化がプラズモンの伝搬速度を変化させることの帰結と考えられます。このようなエッジ状態の変化は、量子ホール効果での抵抗値には影響を与えないため、抵抗での検出は困難です。本成果はエッジ状態の制御と観測を高精度で行うことにより、エッジ状態に関する基礎的な知見を与えるとともに、プラズモン制御への指針となることが期待されます。

掲載論文

  • 掲載誌:Journal of Physical Society of Japan (JPSJ)
  • タイトル:“Frequencies of the Edge-Magnetoplasmon Excitations in Gated Quantum Hall Edges”, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 064709-(1-8) (2018).
  • 著者:Akira Endo, Keita Koike, Shingo Katsumoto, and Yasuhiro Iye
  • DOI:10.7566/JPSJ.87.064709

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(公開日: 2018年06月04日)