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原子層膜に存在するピコメートルの局所ひずみを測定

東京大学物性研究所の服部卓磨大学院生(研究当時/現 大阪大学大学院工学研究科 物理学系専攻 助教)、宮町俊生助教(研究当時/現 電気通信大学大学院 情報理工学研究科 助教)、小森文夫教授らは、原子層膜に生じた数pmの局所格子ひずみの分布を、モアレパターンを利用して観測することに成功しました。

薄膜内に生じたひずみは電子状態を局所的に変化させるため、触媒反応の活性サイトや結晶成長様式などに影響を及ぼします。そのため、表面での化学的、物理的性質の詳細な理解のためには数pm程度の局所ひずみを調べることが必要となりますが、既存の顕微鏡観察ではこのスケールの分解能を得るのが困難です。

今回、研究グループは、原子分解能でかつ実空間で直接観察可能な走査トンネル顕微鏡を用いて、Cu基板上に成長した三角格子窒化鉄膜に生じたモアレパターンを観察しました。モアレパターンは、周期の異なる2つの縞の重なりによって生じる干渉縞のことです(図1)。この干渉縞は、縞の周期のごく微少な変化によっても大きく変化するため、拡大鏡としての役割があります。そこで窒化鉄膜に生じたモアレパターンに着目し、その局所的なずれを評価することで、窒化鉄原子層膜に生じている5 pm程度の局所ひずみを検出することに成功しました(図2)。この解析を原子層膜の広範囲に行うことで、窒化鉄膜に生じている2次元的なひずみの分布を明らかにすることに成功しました。

fig1

図1 2つの縞模様を2°傾けた場合と3°傾けた場合のモアレパターンの変化
1°の変化がモアレパターンでははっきりと見えている。
fig2

図2 窒化鉄原子層膜のSTM像
表面鉄原子と下地のCu基板との格子間隔の違いにより、鉄原子配列の約4倍周期のモアレパターンが見えている。

さらに、このひずみの分布を用いて、ひずみの大きさと原子層膜中に存在する不純物の位置との関係性を調べました。その結果、原子層膜の成長時に生じる不純物がひずみの大きいところに存在しやすいということを示しました。

近年、2次元物質など数多くの原子層膜についての研究が盛んに行われており、モアレパターンが顕微鏡観察によって観測されています。今回のようなモアレパターンを利用した歪み計測の手法は他の原子層膜にも適用でき、局所ひずみに起因した詳細な電子状態変化が観察できることが期待されています。

本成果は3月9日付のNano Lettersにオンライン掲載されました。

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(公開日: 2021年03月11日)