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物性科学って何だろう?
物性科学」という言葉を初めて目にしたえっちゃんが、物性研究所で日夜研究を続けている若いりゅうど先生に一生懸命聞きました。
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えっちゃん |
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ねえ、「物性科学」って、一体何のこと? |
| りゅうど先生 |
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確かに普段あまり聞かない言葉だよね。でも文字通り「物」の「性質」を調べる科学のことだよ。 |
| えっちゃん |
: |
「物の性質」って、一体どんなことかしら?電気を通す、とか、透明、とかいうこと? |
| りゅうど先生 |
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それも確かに物の性質だけど、物性科学というのは、そのような性質を、その物質を作りあげている原子や電子のミクロの世界から調べていこうという学問だよ。 |
| えっちゃん |
: |
ふーん、なんだか難しそうね。そんなことを調べて、何か役に立つのかしら? |
| りゅうど先生 |
: |
ひとつ、例を挙げてみようか。えっちゃんは真空管ラジオって、知っているかな? |
| えっちゃん |
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ええ、知ってるわ。昔の写真にあったけど、電子レンジみたいに大きな箱のラジオね※1。 |
| りゅうど先生 |
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そう、そう。その箱の中には「真空管」というものが何本も入っていて、それで電波を捉えたり、それを音に変えたりしていたんだよ。その頃、その真空管を小さくしようという研究が盛んに行われていたんだ。そうすればラジオを小さくできて、便利だろうってね。目的も分かりやすいし、すぐ役に立つ研究だよね。でもその一方、アメリカのベル研究所※2というところでは、ゲルマニウムという物質に針を押しつけて、どんなふうに電気が流れるかという、「物性研究」をしていたグループが居たんだよ。その時はその研究がどんな役に立つか、誰も分からなかったけれど、そのうち、うまくすると小さなゲルマニウムの結晶が真空管と同じような働きをすることが分かってきたんだ。つまりトランジスターの発明になったわけだ※3。 |
| えっちゃん |
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ふーん、それで小さなトランジスターラジオができたのね。 |
| りゅうど先生 |
: |
そう、そしてトランジスターが集積回路 (IC) からさらに大規模集積回路 (LSI) ※4にまで発展し、それを使ってコンピューターが作られ、ついには世の中を大きく変えるまでになったんだよ。真空管を小さくする研究だけやっていたら、確かにお弁当箱くらいの小さなラジオはできていただろうけど、決して今のようなコンピューター社会はできていなかったよね※5。今みんなが便利に使っている携帯電話やカーナビなども、すべて物性科学の成果無しには全く考えられない新しい技術を使っているんだよ。 |
| えっちゃん |
: |
ふーん、物性科学って本当は私たちの生活にも身近なものなのね。でもこの物性研究所でやっていることを見ても、あんまりそんなに役立ちそうには思えないわ。 |
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| りゅうど先生 |
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それが当たり前なんだよ。神様でもなければ、ずっと未来に何が役立つかは分からない。でも自然界はすべてそんなもので、「役立つ」のはほんの一握りだけなんだよ。たとえば、一匹の鮭が産む卵の数を知っているかな? |
| えっちゃん |
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私、いくらは大好きだけど、見当が付かないわ。 |
| りゅうど先生 |
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大体5000個以上だよ。でもその中で、また次の世代を産むまでに成長する鮭はほんとにわずかしか居ないよね。だったら最初から数個だけ産んで、大切に大切に育てれば良いかというと、やはりそうはいかないんだよね。自然界ではいろいろ予想もできない事がたくさん起きて、その中で生き残ることができるのはごくわずかなんだ。基礎科学も同じで、一見何の役に立つか見当もつかない事をいろいろやってみないと、結局進歩しないんだよ。 |
| えっちゃん |
: |
ふーん、だいぶ解ってきたわ。でもそんなわけの分からないことやっていて、みんな楽しいの? |
| りゅうど先生 |
: |
うーん、そんなにわけがわからないことをやっているつもりじゃないんだけどね(笑)。今はまだ基礎段階にあっても、将来もしかしたら偉大な発見や発明につながるかもしれない、そんな夢を見ながら、研究者はがんばっているんだ。それはとても楽しいことだよ。もしかしたら、将来世の中をとても変えてしまう発明の芽が、この研究所で芽生えはじめているかもしれないね。
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※1 |
真空管を 5 本用いた「5球スーパーラジオ」が昭和20-30年代に各家庭に普及していた。 |
| ※2 |
アメリカのベル電話会社が運営していた物性科学の基礎研究所。 |
| ※3 |
この研究を進めていたショックレー、バーディーン、ブラッテンの3名はトランジスターの発明によって1956年のノーベル物理学賞を受賞した。 |
| ※4 |
コンピューターの心臓部に使われている最近の超LSI1個の中には、数100万個ものトランジスターが詰め込まれている。 |
| ※5 |
最初の電子計算機「エニアック」は1万8千本の真空管を使い、部屋一杯の大きさで、総重量30トンというしろものだった。 |