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機能物性セミナー:凝縮相量子ダイナミクスの理論とその光合成初期過程への展開

日程 : 2015年12月24日(木) 13:30 - 14:30 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 石崎章仁 氏 所属 : 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 世話人 : 森 初果 (63444)
e-mail: hmori@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

光合成光捕集系における色素タンパク質複合体は、捕捉された太陽光を確実に電気化学エネルギーに変換できるよう巧妙に組織されている。捕捉された太陽光が色素分子の電子励起エネルギーとなり、ほぼ100%の収率で反応中心へ輸送され電気化学エネルギーに変換される。しかし、その驚異的なエネルギー変換効率の物理的理由は未だ不明である。
 従来、光合成光捕集系における電子励起エネルギー移動を記述する標準的な理論として「電子励起系とタンパク質環境との相互作用を摂動として扱うRedfield理論」と「電子励起間の静電相互作用を摂動として扱うFörster理論」が用いられてきた。ところが、天然の光合成光捕集系におけるエネルギー移動は両理論の妥当性が明らかで無い中間領域で実現しており、その動態の記述と理解は光合成光捕集系の物理化学・生物物理学研究において大きな問題として残されていた。
 我々は、動的揺らぎの相関時間を実験的に得ることができる非線形レーザー分光法3-Pulse Photon Echo Peak Shift (3PEPS)のデータに基づき、色素電子状態の揺らぎとタンパク質の局所的な歪み・応答の間に成り立つ揺動散逸関係に注意しながら量子動力学モデルを構成し、Redfield理論とFörster理論とを補間することに世界で初めて成功した。講演では、両理論では記述不可能な中間領域で起こるエネルギー移動ダイナミクスの様相、特に、天然の状況に対応するパラメータ領域でこそエネルギー移動の速度が最大化・最適化されていることを報告したい。また、統計物理や量子物理の分野で発展させられた種々の概念や手法を借用することで、光合成光捕集系における高速エネルギー移動や初期電荷分離の物理的起源を議論したい。


(公開日: 2015年12月14日)