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放射光セミナー「光電子顕微鏡とMomentum-microscopeと2次元イメージング型スピン検出器による超高感度スピン偏極2次元同時角度分解光電子分光」

日程 : 2015年5月11日(月) 1:30 pm 〜 場所 : 物性研究所本館6階 第1会議室(A636) TV会議 SPring-8会議室 講師 : 菅 滋正 氏  所属 : マックスプランク微細構造物理学研究所, 大阪大学産業科学研究所 世話人 : 小森 文夫 (63310)
e-mail: komori@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

トポロジカル絶縁体に見られるように多数の興味ある固体電子状態の研究にはスピン分解できる角度分解光電子分光(ARPES)が最も有効であると考えられる。
放射光の利用開始以来数十年にわたりARPESの手法は着実に発展してきた。2次元検出器を用いることで検出効率も飛躍的に向上してきた。しかしながら光電子のスピン検出に現在でも用いられるMott検出器やスピンLEED検出器のfigure of meritと呼ばれるスピン検出効率 f0=(I/I0)Seff2 は10-4程度と依然として極めて低い。ここでI0は検出器targetに入る電子数、Iは検出器からの反射電子数、Seffは100%偏極した電子がtargetに当たったときの反射電子のスピン依存強度の非対称性でシャーマン関数とよばれる。 我が国で近年高寿命化に成功したFe-O VLEEDスピン検出器ではf0が10-2程度に向上したことで、これまでより格段に効率の高いスピン偏極角度分解光電子分光(SP-ARPES)が可能となった。それでも(kx,ky)の1点ずつのスピン偏極を測定しなければならない(つまりシングルチャンネル検出)ためにエネルギー分解能あるいは波数分解能を犠牲にしたうえで、さらにかなり狭い波数領域の測定を行う他なかった。
 ここ数年ドイツのマックスプランク微細構造物理学研究所で、S字配置の2台の静電半球型電子エネルギー分析器(HDAs)で収差を補正をしたうえで同時2次元角度分解光電子分光のできるMomentum microscope(M.M.)の開発が進みに、さらに一昨年Au/Ir(001) 2次元イメージング型スピン検出器を付けることで、スピン偏極同時2次元角度分解光電子分光(SP-2D-ARPES)が可能となった。
1万点にも及ぶ(kx,ky)点でのスピン偏極の同時測定ができるためVLEED検出器の更に千倍から1万倍のスピン検出感度での実験が可能となった。入射側には光電子顕微鏡(PEEM)レンズを用いているため2πステラジアン全てに放出された電子を検出器に導くことができる。このため極めて広い2次元波数空間での測定がHeランプを用いてさえエネルギー分解能12meV、波数分解能0.005Å-1の高分解能で可能となった。またPEEMを用いているために実空間のμmあるいは数百nm域を選んだミクロナノ測定も可能である。Laserあるいは放射光を用いた研究は更に強力と考えられるので、現在その方向で装置 改良を進めている。この高性能装置はまだ世界で1台しかないが、光電子分光の新しい 時代がまさに始まろうとしている。全波数空間の隅々までの高精度のスピン情報は、理論へのfeedbackや共同研究により固体物理学全体の推進にも大きく役立つものと思われる。

References
1.S.Suga and A.Sekiyama, Photoelectron Spectroscopy: Bulk and Surface Electronic Structures, Springer Series in Optical Sciences 176,1-378 (2014).
2.S.Suga and C.Tusche, Photoelectron spectroscopy in a wide h region from 6 eV to 8 keV with full momentum and spin resolution, J.Electron Spectrosc. Rel. Phenom. (2015), in press.


(公開日: 2015年04月27日)