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シリーズセミナー 極限コヒーレント光科学 30回目「トポロジカル磁気秩序の光励起」

日程 : 2015年6月9日(火) 10:00 - 12:00 場所 : 物性研究所本館6階 第一会議室 (A636) 講師 : 小川直毅 所属 : 理化学研究所 創発物性科学研究センター 世話人 : 谷 峻太郎 (63356)
e-mail: stani@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

実空間, またk空間における特異な磁気秩序の光励起/光操作について, 創発物性科学研究センターにおける最近の研究を紹介したい.
(i) ナノスケールかつトポロジカルな磁気秩序であるスキルミオンに対し, その創発電磁応答を利用した電流, 電場, 熱, スピン波等による操作/駆動が報告され, その基礎物性への興味に加えメモリ等の応用が期待されている. 磁気スキルミオン相を示す物質群のうちCu2OSeO3は絶縁体であり, これまでにもマイクロ波共鳴によりスキルミオンの集団運動や方向二色性などが示されてきた. 我々は非吸収波長における光の逆ファラデー効果を用いたスピン波励起と時間分解磁気光学測定により, 磁気スキルミオンの瞬時励起とダイナミクス観測, また磁気相の特定が可能であることを明らかにした. 例えば試料面内磁場下においては, 各磁気相において周波数/時定数の異なる2つのスピン波モードが観測され, それぞれヘリマグノンの±Qモード, スキルミオンの回転モードと同定された. 面直磁場下においてはブリージングモードが励起される. これらはトポロジカルな磁気秩序の局所インパルス応答に対応し, 光操作に加え, 光と創発電磁場の相互作用, 例えばトポロジカル逆ファラデー効果等の探索に繋がると考えられる.
(ii) 磁性の高速/精密制御に向けて, スピン波と磁気秩序の相互作用, また磁壁のトポロジーに依存した相互作用の検出/可視化が期待されている. 我々は, 鉄ガーネット薄膜において, 非吸収波長のパルス光により磁気弾性波(マグノンとフォノンの結合波)が発生すること, また磁気弾性波と磁壁や磁気バブルドメインの間に引力相互作用が働くことを見出した. 双極子相互作用により形成されるバブルドメインは, もっとも単純な場合に磁気スキルミオンと同じトポロジーを示す. 理論計算からはドメイン壁の曲率に依存した相互作用力が示され, 実空間での定量観測を進めている.
(iii) 中心対称性の破れとスピン軌道相互作用により, k空間でスピン分裂したバンド構造(ラシュバ分裂)とヘリカルスピン状態を示す物質が存在する. これら物質系においては, 円偏光によるバンド選択励起によりスピン偏極電流の発生が可能となる. バルク結晶として巨大なラシュバ分裂を示すBiTeBrを用いることにより, 大きな円偏光ガルバニック効果が発生すること, またある励起波長領域において光電流がディラック電子により担われていることを確認した. 入射円偏光のヘリシティ, 入射角, 波長を変えることにより, スピン偏極電子の運動を任意に制御できる.  


(公開日: 2015年05月21日)