極限セミナー「量子スピン液体物質Ba3CuSb2O9 の熱輸送特性」
六方晶ペロブスカイト型銅酸化物Ba3CuSb2O9はCu2+間の超交換相互作用(J 〜 55 K)が存在するにもかかわらず、20 mKまでの低温で磁気秩序は観測されていない[1]。一方、Cu2+イオンの軌道に縮退が残っているにも関わらず、静的なJahn-Teller歪みは観測されていない[2]。よってこの物質ではスピンの自由度だけでなく軌道自由度も低温まで凍結しない量子スピン軌道液体状態が実現している可能性が提唱されている[1-3]。量子スピン液体状態の詳細を明らかにするために、我々は熱伝導率・熱ホール伝導率測定を行った。参照物質としてJahn-Teller転移を200 Kで示す斜方晶物質と六方晶物質を比較した。
六方晶Ba3CuSb2O9と斜方晶物質はともに、他のスピン液体物質に比べ非常に小さい熱伝導を示す事が明らかとなった。この結果から、この物質特有のCu2+-Sb5+ダンベル構造の短距離秩序によってフォノンの平均自由行程が抑えられている事が明らかとなった。また、六方晶物質には明確な熱ホール効果が存在する事がわかった。スピンギャップによってスピン励起が消失しているため、フォノン励起による熱ホール効果であると考えられる。
Reference
[1] S. Nakatsuji et. al., Science 336, 559 (2012).
[2] N. Katayama et. al., PNAS 112, 9305 (2015).
[3] J. Nasu and S. Ishihara, Phys. Rev. B 88, 094408 (2013).