非平衡統計力学を用いた生体内輸送現象の研究
e-mail: inoue@issp.u-tokyo.ac.jp講演言語 : 日本語
アインシュタイン関係式やグリーン・久保公式に代表される揺動散逸定理(線形応答理論)は、外場の小さい線形応答領域で成立する関係式である。フラストレーションのあるスピングラスや構造ガラス、強い外場で駆動される粒子系では揺動散逸定理の破れが報告されている。揺動散逸定理の破れは生物系でも報告があり、本研究では神経細胞内の軸索輸送という生体内の輸送現象に着目する。
神経細胞は核があり物質合成を行う細胞体とシナプスのある末端領域が長い軸索を介して結合されている。その両末端間の物流を担うのが軸索輸送であり、分子モーター(キネシンとダイニン)が微小管というレールに沿って物質を輸送する。分子モーターは細胞内で、アデノシン三リン酸加水分解で得た化学エネルギーを歩行という力学エネルギーに変換して機能するタンパク質である。神経細胞軸索輸送は蛍光顕微鏡を用いて観察する。本研究では緑色蛍光タンパク質を蛍光ラベルとして用い、輸送動態の非平衡揺らぎ解析のために10 msの高速イメージングを行った。
神経細胞内という強い非平衡系では統計物理法則が成り立たず、物性計測が難しくなる。このような状況で、どのように輸送力や輸送速度などの物理パラメータを見積もり、軸索輸送を物理系として理解するかが問題である。また、軸索輸送は神経細胞の物流の要であるため、軸索輸送障害と神経疾患は深い関係がある。本研究では特にKIF1A関連神経障害としての痙性対麻痺やミトコンドリア病などの疾患メカニズム理解のための取り組みについて話す。物理学、特に非平衡統計力学を医学に役立てる挑戦を紹介する。
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