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アト秒高次高調波で探る光波電界周期スケール光物性

日程 : 2018年7月10日(火) 1:30 pm - 2:30 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第一会議室 (A636) 講師 : 小栗 克弥 氏 所属 : 日本電信電話株式会社 NTT 物性科学基礎研究所 世話人 : 辛 埴 (63380)
e-mail: shin@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

今世紀初頭に発明されたアト秒光源技術、光時計技術、そして光位相安定化技術という 3つの革新的光技術は、光を、時間領域において10-18秒スケールで計測可能かつ周波数領域において10-18精度で制御可能な振動電界として取り扱うことを可能にした。今や、光はサブペタヘルツ(PHz : 1015 Hz)周波数で振動する電界としてエンジニアリングが可能な電磁波、すなわち”PHz波”として再定義できる時期を迎えている。このようなPHz波における光物性を考えた場合、光波電界によって駆動されるコヒーレントな固体電子系応答と、そのコヒーレンスを消失させ、非平衡状態を経て熱平衡電子状態に緩和させる電子系散乱過程がそのダイナミクスを支配する。その典型的な時間スケールは、光波電界の数サイク ルからサブサイクルに相当する10000~100asといった極めて短時間である。最近、大きな注目を集めている固体からの高次高調波発生、高強度光電界による絶縁体中の動的ツェナートンネリング効果、動的フランツ・ケルディッシュ効果といったコヒーレントな電子応答や、瞬時スクリーニングよる電荷秩序相の溶解、逆オージェ過程による電子多重励起といった極めて速い電子緩和過程は、この光波電界周期スケール光物性の典型例と言えよう。

我々は、高次高調波発生により真空紫外~軟X線領域に得られるアト秒パルスと[1]、 ポンププローブ時間分解計測技術を組み合わせたアト秒パルス時間分解分光技術を開発し、 光波(PHz波)-電子相互作用が引き起こす光波電界周期スケール光物性を解明することを 目的として研究を進めている。これまでに、世界最短時間分解能200as吸収分光[2]、世界 最短プローブ分解能サブ5fs 角度分解光電子分光[3]、最高92eVプローブ光電子分光[4] などユニークな特徴を有する装置を開発してきた。本講演では、これらの装置を用いることにより観測に成功したワイドギャップ半導体における光電界誘起の非線形分極応答[1]、 グラファイトにおける非平衡電子状態緩和[2]など、最新の成果について紹介する。これらの光波電界周期スケール光物性が切り拓く将来のPHz周波数動作機能の可能性についても 議論したい。

 

[1] Oguri et al., Appl. Phys. Lett. 112, 181105 (2018).

[2] Mashiko et al., Nature Communications 9, 1468 (2018).

[3] Toume et al., in preparation.

[4] Oguri et al., Appl. Phys. Express 8, 022401 (2015).


(公開日: 2018年06月21日)