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ヘリウム再液化事業を拡大 容器冷却管理業務を開始 ―流通過程で放出されるヘリウムガスを再液化リサイクル―

東京大学物性研究所

国立大学法人東京大学物性研究所(所長:廣井善二、以下「物性研」)は、2019年に開始したヘリウムガスの再液化事業を拡大し、新たに液体ヘリウム容器の冷却管理業務を開始いたします。

これまで流通の過程で液体ヘリウム容器から気化したヘリウムは大気に放出されていました。これを設備が整った物性研で冷却管理し、保管期間中に気化したヘリウムを回収・再液化する新たな業務を開始します。大学・研究機関のみならずガスサプライヤー等のガス取扱事業者へ範囲を拡大することにより、社会全体で大気中へ放出されるヘリウムを削減し、ヘリウムの安定供給に寄与します。

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液体ヘリウムの流通とその過程で気化し放出されるヘリウム

拡大事業概要

  • 開始日 :2024年4月1日
  • 所在地 :東京大学物性研究所(千葉県柏市柏の葉5-1-5)
  • 代 表 :東京大学物性研究所 所長 廣井善二
  • 拡大目的:液体ヘリウムの流通過程全体を通して、大気に放出されるヘリウムを削減する
  • 事業内容:事業者が保有する液体ヘリウム容器を極低温状態で冷却管理する

背景

ヘリウム(He)は、全ての物質の中で最も低い温度−269°C(4ケルビン)で液化し、非常に安定で何とも反応しないという特性をもっています。完全不活性、高い熱伝導率といった特性はヘリウムの他には無く、学術研究のみならず、医療用MRIの超伝導磁石冷却、光ファイバーや半導体の製造など、幅広い分野にわたって不可欠な物質となっています。

一方で、日本はその全量を輸入に頼っています。最大の輸入先だった米国の輸出方針転換から、2019年には日本国内において大規模なヘリウム不足が発生しました。同年12月には、日本物理学会をはじめ6学会、2研究機関連絡会、39機関連名による「『ヘリウム危機』に臨んでの緊急声明 ヘリウムリサイクル社会をめざして」が発表され、大きな話題となりました。中東の情勢不安定に加え、ロシアのウクライナ侵攻とヘリウムの産出・輸入量はより厳しい状況になっています。2024年現在、2019年当初と比較して、ヘリウム市場価格が2倍強に高騰しており、この先も依然厳しい状況が続くことが見込まれます。

物性研では2019年10月より、ヘリウムのリサイクルを目的とした再液化事業を実施しています。冷却等に利用し気化したヘリウムを回収、物性研にて精製・再液化を行うことで、再度液体ヘリウムとして利用可能になります。事業開始後、2024年3月1日までの期間で累計1万7000リットルを超える量のヘリウムを再液化して供給してきました。

本事業を進めていく中で、液体ヘリウム保管に関する新たな問題が浮かび上がりました。液体ヘリウムは、極低温を保温する特殊な容器を活用し保管しますが、この容器からも毎日微量のヘリウムが気化し、大気中へ放出されます。また、室温程度の容器に液体ヘリウムを充填する際には、容器自体を極低温まで冷却する必要があり、この冷却の際にも大量の液体ヘリウムが気化し、大気へ放出されてしまいます。物性研のように回収・再液化設備を備えた施設であれば、気化したヘリウムを回収し再度液化できますが、国内のガス会社、特に卸売業者には回収・再液化設備を備えている企業は少なく、流通の過程で少なくない量のヘリウムが大気放出されていました。ヘリウム市場価格が安価で輸入量も潤沢だった時代では、これらの大気放出は問題視されてきませんでしたが、輸入量が減り、価格も上昇の一途を辿る中で、事業者側からも大気へ放出されるヘリウム量を削減したいというニーズが生まれました。

ヘリウムの回収・再液化設備を保有する物性研では、これらの実情、ニーズを鑑みて、ヘリウム容器の冷却管理事業を新たに実施することを決定しました。

整った環境で容器の管理を行うことにより、大気中へ放出されるヘリウムを削減、再利用できます。物性研では、希少な天然資源であるヘリウムの安定供給に繋がる再液化・再利用への貢献を推進していきます。

事業内容

申請を行なった事業者の保有する、すでに液体ヘリウムの入った容器を物性研にて冷却管理します。部屋内で気化したヘリウムは回収・再液化を行い、再度容器へ充填します。なお、充填の都合上、当事業の申請に際しては、再液化事業への申請も必須とします。冷却管理には基本料金のほか、冷却管理作業のための手数料を徴収します。

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