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坂本祥哉助教(三輪研)が第28回日本放射光学会奨励賞を受賞

三輪研究室の坂本祥哉助教は、2024年1月10日から12日にかけてアクリエひめじで行われた第37回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムにおいて、第28回日本放射光学会奨励賞を受賞しました。同賞は、放射光科学分野において優れた研究成果をあげた35歳未満の若手研究者の功績を称え、今後の更なる活躍を奨励するために贈られます。今回は3人に奨励賞が贈られ、物性研究所からは堀尾眞史助教(松田巌研)も受賞しています。

受賞対象となった研究は「軟X線磁気円二色性によるスピントロニクス薄膜の磁性と電子構造の研究」です。

受賞者の写真

日本放射光学会奨励賞を受賞した坂本祥哉助教(右)

電子の電荷とスピンを巧みに利用する次世代情報技術であるスピントロニクスの研究は、近年ますます発展している分野です。その物質開発において、物性の起源を微視的に解明することは学術的にも工業的にも重要です。とりわけ放射光を用いた磁気円二色性分光(XMCD)は、特定の元素のスピン・軌道磁気モーメントといった磁性の情報を抽出することができ、盛んに用いられています。

坂本助教は、XMCDを主軸とした研究を博士課程在学時より展開し、これまで14報の主著論文を発表しています。とりわけ、近年のFe/MgO界面における電子構造の研究と反強磁性体Mn3Snエピタキシャル薄膜における非自明なXMCDの観測の研究が受賞対象の研究となりました。

Fe/MgO界面は大きなトンネル磁気抵抗効果と垂直磁気異方性を示すことから、スピントロニクス応用に欠かせません。この2つの効果はそれぞれ界面のFeのスピンと軌道磁気モーメントによって特徴づけられますが、それらの振る舞いは実験的に未解明のままでした。坂本助教は、Photon FactoryのBL-7Aにおいて深さ分解XMCDという発展的手法を用い、界面一原子層のFeのスピンと軌道磁気モーメントの測定に初めて成功しました。得られた軌道磁気モーメントは一般的な第一原理計算の予測より2倍以上大きく、その増大は界面における電子相関を考慮することによって説明されることを明らかにしました。さらに、この研究を発展させ、界面における電子相関がFe/LiF/MgO構造における垂直磁気異方性の増大にも寄与すること見出しました。これらの研究は、スピントロニクスの分野で軽視されてきた電子相関が、最も基礎的なFe/MgO界面においても重要であることを示すもので、今後のスピントロニクス研究に新たな方向性を生み出すものと期待されます。

反強磁性体Mn3SnはMnカゴメ格子上に逆三角スピン構造を持ち、トポロジカルに非自明な電子構造を持つワイル反強磁性体です。この物質は反強磁性体にも関わらず大きな強磁性的応答を示す物質として注目され、強磁性体が主役のスピントロニクスに新たな潮流を生み出しています。坂本助教は、Mn3Snエピタキシャル薄膜の開発に取り組み、Photon FactoryのBL-16Aにおいてその微視的な磁気状態をXMCD分光によって調べ、逆三角スピン構造に由来する非自明なXMCD信号の観測に成功しました。この成果は、「反強磁性体ではXMCDは観測されない」という常識を覆し、エピタキシャル薄膜において三角反強磁性成分とスピンキャント成分の定量評価に成功した点で意義深く、反強磁性秩序の電気的制御や反強磁性トンネル磁気抵抗効果の実現への足がかりとなりました。

これらのスピントロニクスの薄膜・デバイス開発と放射光分光研究を両輪とした精力的でユニークな研究が評価され、今後の活躍を奨励する日本放射光学会奨励賞の授与が決定しました。

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