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理論セミナー:キタエフ・イジング模型における新規量子相と “液-液”相転移

日程 : 2016年11月25日(金) 16:00 - 17:00 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 那須 譲治 氏 所属 : 東京工業大学理学院 世話人 : 川島 直輝 (63260)
e-mail: kawashima@issp.u-tokyo.ac.jp

 2006年にA. Kitaevによって導入された量子スピン模型であるキタエフ模型は、固体物理のみならず量子情報などを含む幅広い分野で注目を集めている。この模型は、蜂の巣格子上に定義されたS=1/2量子スピン模型で、厳密に解くことができ、基底状態は量子スピン液体となる。この量子スピン液体の安定性や、イリジウム酸化物やルテニウム化合物などの実際の物質との対応を議論するために、キタエフ模型にハイゼンベルク相互作用などを導入した模型の研究が精力的に行われている。そこでは、量子スピン液体がハイゼンベルク相互作用の導入に伴い、様々な磁気秩序へと変化する様子が調べられている。しかしながら、キタエフ相互作用と、ハイゼンベルク相互作用といった磁気秩序を安定化させる相互作用との競合によって生じる新たな無秩序量子相の可能性は議論されていないのが現状である。
 本研究では、磁気秩序を安定化させる最も簡単な相互作用であるイジング相互作用をキタエフ模型に導入した模型の磁気的性質を系統的に調べた[1]。この模型を、有限クラスターにおける厳密対角化と、量子スピンのマヨラナフェルミオン表示による平均場近似で計算を行った。その結果、イジング相互作用の導入に伴い、量子スピン液体と磁気秩序の間にこれらと異なる新しい液体相が出現することを見出した。この状態はキタエフ相互作用が異方的な場合に現れ、スピン四極子状態に対応することがわかった。この結果は、異なるタイプの量子無秩序状態の間で液-液相転移が生じたことを示している。この相転移はキタエフ模型に内在するZ2ゲージ場の非局在化が原動力となっており、有効模型の解析から一次転移であることが強く示唆されている。さらに、HΦを用いた熱的純粋量子状態による有限温度計算も行い、この一次転移は有限温度の臨界点で終端し、この点を超えて2種類の無秩序相が連続的に接続することがわかった。この新規量子相は、キタエフ・イジング模型に限らず、キタエフ・ハイゼンベルク模型など他のキタエフ関連模型でも生じる可能性がある。
 本研究は、加藤康之氏(東大工)、吉竹純基氏(東大工)、紙屋佳知氏(理研)、求幸年氏(東大工)との共同研究によるものである。
[1] J. Nasu, Y. Kato, J. Yoshitake, Y. Kamiya, Y. Motome, arXiv:1610.07343.


(公開日: 2016年10月31日)