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理論セミナー:多軌道電子系における局所磁気モーメント形成とスピン三重項超伝導

日程 : 2016年2月26日(金) 16:00 - 17:00 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 星野 晋太郎 氏 所属 : 東京大学大学院 総合文化研究科 世話人 : 加藤 岳生 (63255)
e-mail: kato@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

同じスピンを持つ電子が対形成したスピン三重項超伝導は、Sr2RuO4やU化合 物を含む物質群においてその実現可能性が提案されている。通常、スピン三重項超伝導に対しては空間的に奇パリティ(p波)をもつ異方的な電子対が仮定され るが、電子の持つ軌道自由度を考慮するならば等方的な(s波)スピン三重項超伝導も可能である[1,2]。この機構は以下のように理解することができる。 すなわち、異軌道間の電子スピンの間にはフント結合というクーロン相互作用に由来する強磁性的な結合があり、これは同じスピン間の有効引力として働く。し かし、現実の物質ではこのような超伝導が多く実現しているわけではないため、上記の超伝導がどのような状況下で実現するかを明らかにする必要がある。そこ で我々は多軌道ハバードモデルを動的平均場理論によって解析し、スピン三重項超伝導が実現するパラメータ領域を調べた[3]。その結果、この超伝導は Spin-freezing現象[4,5]という、多軌道電子系特有の物理と関係していることを明らかにした。
  さらに、超伝導相は磁気秩序相と隣接しており、かつ転移温度はドーム形状を持つため、相図は一般によく知られている非従来型超伝導体のそれと酷似している。通常、磁気的量子臨界点まわりから生じる非局所的な揺らぎ(マグノン)によるクーパー対形成が考えられているが、本研究で見出された超伝導は Spin-freezing現象に伴う局所的な磁気揺らぎが重要であり、量子臨界点とは直接の関係がない。セミナーではこの超伝導の機構について詳しく紹 介し、現実物質との関連についても議論したい。
  この研究はPhilipp Werner氏(スイスFribourg大)との共同研究である。

[1] A. Klejnberg and J. Spalek, J. Phys.: Condens. Matter 11, 6553 (1999).
[2] M. Zegrodnik, J. Bunemann and J. Spalek, New J. Phys. 16, 033001 (2014).
[3] S. Hoshino and P. Werner, Phys. Rev. Lett. 115, 247001 (2015).
[4] P. Werner, E. Gull, M. Troyer, and A. J. Millis, Phys. Rev. Lett. 101, 166405 (2008).
[5] A. Georges, L. d. Medici, and J. Mravlje, Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 4, 137 (2013).


(公開日: 2016年02月18日)