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硫化水素を加圧して現れる高温超伝導

日程 : 2016年1月15日(金) 16:30 - 17:30 場所 : 物性研究所本館6階 大講義室(A632) 講師 : 清水 克哉 氏 所属 : 大阪大学 基礎工学研究科 附属極限科学センター 世話人 : 加藤 岳生 ・ 山下 穣講演言語 : 日本語

 2014年12月にairXivに報告された190 Kの超伝導 1は、高圧力下ではあるものの、20年間以上停滞していた超伝導転移温度の最高温度の記録を大幅に更新するもので多くの研究者に注目された。この硫化水素から現れた超伝導が、本物なのかを明らかにするべく再現実験や追試が求められてきたが、現在までに超伝導を支持する実験結果は、後述する我々のグループによる再現実験に限られているようである。一方で、高圧力下の結晶構造や超伝導転移温度は理論計算 2,3 によってよく説明されてきているが、未だこの超伝導には多くの追試実験が望まれるところである。
 室温にせまる、または超えるような高温超伝導は水素を高密度に圧縮した固体金属水素において理論予測されてきたが、実験的にはその生成に必要な超高圧力は達成されていない。その一方で水素を多く含有する—いわゆる水素リッチな—物質である水素吸蔵合金や炭化水素などを高密度に圧縮すれば、内在する水素由来の超伝導性が期待できるのではと考えられてきた。この硫化水素はまさに水素リッチシステムのひとつと考えることもできる。
 我々は、これまでに3つの再現実験を行った。(1)Eremetsらがセットした試料の入った高圧装置を、阪大の冷凍機および電気抵抗測定装置を用いて電気抵抗の温度依存性を測定して、文献1~3と同じ結果を得た。(2)このEremetsらの試料をSPring-8において結晶構造を測定したところ、超伝導転移温度前後における結晶構造は、Cuiらの理論4した結晶構造を再現しており、硫黄原子が体心立方で配置する構造であることが分かった 5。(3)我々が独自にセットした試料においてもややブロードながら約180 Kのオンセットをもつ超伝導転移が確認された。これらの追試の現状をあわせて、硫化水素を加圧して現れる高温超伝導について紹介する。

参考文献
[1] A. Drozdov et al., arXiv:1412.0460 (2014), arXiv:1506.08190 (2015), Nature 525, 73 (2015).
[2] Y. Li et al., J. Chem. Phys. 140, 040901 (2014) など.
[3] I. Errea et al., Phys. Rev. Lett. 114, 157004 (2015) など.
[4] D. Duan et al., Sci. Reports 4, 6968 (2014).
[5] M. Einaga et al., arXiv:1509.03156v1 (2015).

【講師紹介】
清水教授は、最近報告された世界最高転移温度を持つ超伝導物質H2Sの追試実験に世界で始めて成功した、この分野の第一人者です。この最も注目されている研究について、ご講演いただきます。


(公開日: 2016年01月07日)