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最先端レーザー光電子分光を用いた極限条件での超伝導研究;超精密測定と非平衡電子状態の観測

日程 : 2016年7月20日(水) 16:00 - 17:00 場所 : 物性研究所本館6階 大講義室(A632) 講師 : 岡﨑 浩三 氏 所属 : 東京大学物性研究所 講演言語 : 日本語

光電子分光は物質中の電子状態を直接観測できる強力な実験手法であるが、励起光源に超高分解能 レーザーを用いる事で超伝導体等の電子構造を超精密測定する事が出来るだけでなく、フェムト秒パルスレーザーを用いる事でポンプ-プローブ法により非平衡電子状態を観測する事ができる。最先端分光を用いることによって、多面的な側面から超伝導の研究が出来るようになってきた。講演者はこれまで、世界最高の極低温超高分解能レーザー角度分解光電子分光装置を建設し、鉄系超伝導体等における超伝導ギャップの精密測定を行い[1-5]、超伝導ギャップにノードを持つ鉄系超伝導体KFe2As2におけるオクテット・ラインノード構造[1]、BCS的な超伝導とBEC的な超伝導の共存[3]等を明らかにしてきた。一方、軟X線領域の高次高調波レーザーを用いた時間分解光電子分光装置も建設し、非平衡電子状態を観測することにより、超伝導の起源となるボゾンを観測することや光誘起超伝導の起源に迫ることも出来るようになってきた。
今回の講演では、マヨラナフェルミオンの実証が期待されるNb上に代表的なトポロジカル絶縁体Bi2Se3を成長させた薄膜における近接効果による超伝導状態の観測、時間分解光電子分光による鉄系超伝導体母物質BaFe2As2におけるコヒーレントフォノンの観測について紹介する。
Bi2Se3/Nbについては、Bi2Se3の層数が少ないと薄膜の“表”と“裏”のトポロジカル表面状態間の相互作用によってディラック点にギャップが生じると期待されるが、5 quintuple layers (QL)の試料では超伝導ギャップが明瞭に観測された。一方10QLの試料では、トポロジカル表面状態であるディラックコーンが明瞭に観測されたが、ディラックコーンの一部でギャップ内状態が存在する事を示唆するスペクトルが得られた。
コヒーレントフォノンの観測については、BaFe2As2についても既に様々な手法で観測されているが、今回極紫外レーザーでの時間分解光電子分光によって初めて、ホール面、電子面それぞれにおいてコヒーレントフォノン励起を観測し、その振動の位相が反転している事を見出した。講演では位相反転の起源と光誘起超伝導の可能性について議論する。

[1]  K. Okazaki et al., Science 337, 1314 (2012)
[2]  K. Okazaki et al., PRL 109, 237011 (2012)
[3]  K. Okazaki et al., Sci. Rep. 4, 4109 (2014)
[4]  Y. Ota, K. Okazakiet al., RRB 89, 081103 (2014)
[5]  T. Shimojima, K. Okazaki, and S. Shin, JPSJ 84, 072001 (2015)

【講師紹介】
岡﨑先生は2014年7月に物性研に着任され、極低温超高分解能レーザーARPESや高次高調波レーザー時間分解ARPESを用いた最先端の実験研究を行っています。本講演では、最近の成果についてご紹介いただきます。

談話会委員 加藤 岳生 ・ 長谷川 幸雄


(公開日: 2016年07月07日)