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中性子散乱を用いたスピン起源の交差相関物性研究

日程 : 2018年5月15日(火) 4:00 pm - 5:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 中島多朗 所属 : 理研創発物性科学研究センター 世話人 : 益田隆嗣 (63415)
e-mail: masuda@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

物質中の磁気モーメントが織りなす多彩な秩序構造とそれが生み出す交差相関物性現象が近年注目を集め,盛んに研究されている.例としてはフラストレーション系における強いスピン・格子結合現象や,マルチフェロイック系におけるスピン起源の電気分極の発現,磁気スキルミオンなどの非共面的磁気秩序が誘起する新奇な伝導現象などがあげられる.このような交差相関現象を研究する上で中性子散乱が果たす役割について,以下の3つの視点でまとめ,今後期待される研究についても議論したい.
(1) スピンと非共役な外場下における磁気秩序の変化の検出
 交差相関系を中性子散乱を用いて研究する際には,単に基底状態の磁気構造を決めるだけでなく,多彩な外場下での磁気構造の“変化”を精度よく検出することが求められる.本講演では三角格子反強磁性体CuFeO2における一軸応力誘起磁気相を中性子三次元偏極解析を用いて探査した結果を紹介する.また,近年注目を集める磁気スキルミオン物質に対する一軸応力効果をJ-PARCの中性子散乱装置を用いて研究した例も紹介したい.
(2) 極限環境での励起状態観測への挑戦,光学測定と中性子非弾性散乱の相補性
 前述の磁気構造と同様に,磁気励起の研究においても,磁場・電場・圧力などの外場下での中性子散乱に対する期待は今後高まると予想される.これについて,前述のCuFeO2の磁気励起に対する磁場(及び非磁性不純物)効果を国内外の中性子非弾性散乱装置C1-1(JRR-3), CTAX(HFIR), LET(ISIS)を用いて系統的に観測した例を紹介する.また,近年進歩が著しいテラヘルツ分光などの光学測定と中性子非弾性散乱を相補的に用いることで,スピン・格子・分極などが結合した興味深い励起状態に対する多面的な理解を得ることができる.一例として偏極中性子三軸分光器PTAX(HFIR)を用いて行ったマルチフェロイック・ヘキサフェライトのエレクトロマグノンの研究を紹介する.
(3)非平衡・過渡現象の観測
 定常状態における磁気秩序・励起を中性子散乱で探査する手法は,測定・解析ともに系統的に整備されつつある.しかし過渡現象や非平衡過程については(すでに先駆的な研究はあるものの)まだ多くの開拓の余地があると考えられる.本発表では磁気スキルミオンの代表物質であるMnSiについて,電流パルスによる試料の急加熱・急冷とJ-PARCのパルス中性子を組み合わせた時分割測定によって磁気相転移のkineticsを研究した例を紹介する.


(公開日: 2018年05月02日)