人工生体膜チップが実現する膜輸送体の1分子生物物理研究
生体膜には分子を輸送する膜タンパク質“膜輸送体”が存在し、人間を含む多細胞生物が生存するうえで必要とされる“恒常的な細胞内外の環境”を維持している。近年、その生理的重要性から膜輸送体に関連する疾患が多数報告されており、各々が持つ機能だけでなく物性や作動機序を同時に解明することが学術・産業の両面において急務とされている。この背景をうけ、昨今では膜輸送体の作動機序に関する研究が盛んに行われているが、輸送機能を高感度に解析することは困難であり、依然として不明な点が多い。この膜輸送体研究における問題を解決するため、近年、細胞膜を模倣した“人工生体膜チップ”が世界中で盛んに開発され、また、それらを基盤とした膜輸送体のための1分子機能解析システムが確立しつつある[1,2,3]。本セミナーでは、最新の人工生体膜チップの開発状況を紹介するとともに、膜タンパク質の作動機序に関する1分子生物物理研究、および、それらに立脚した創薬などの応用研究における将来展望を提示したいと考えている[4,5]。
参考文献
1, Watanabe et al., Nature Communications (2014b) 5, 4519
2, Watanabe et al., Nature Communications (2013) 4, 1631
3, Watanabe et al., IEEE Transactions on Nanotechnology (2016) 15, 70-73
4, Watanabe et al., Scientific Reports (2014) 4, 7076
5, Watanabe et al., Lab on a Chip (2016) 16, 3043-3048