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中性子散乱で観る創発スピン構造

日程 : 2018年9月7日(金) 3:30 pm - 4:30 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第2セミナー室 (A612) 講師 : 富安 啓輔 氏 所属 : 東北大学大学院理学研究科 世話人 : 益田隆嗣 (63415)
e-mail: masuda@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

「スピン構造」は基礎科学的な魅力と応用的な可能性を併せ持つ多彩な物性の源である。金属絶縁体転移・巨大磁気抵抗・トポロジカル効果・スピントロニクス現象は、その代表と言える。スピン構造は、動的と静的、短距離と長距離に大きく分類され、そのいずれの観測にも中性子散乱法は大きな役割を果たしている。
本セミナーでは、フラストレーションやスピンクロスオーバーにより生成される「スピン分子」と呼ばれる動的短距離スピン構造体と「all-in all-out」と呼ばれる静的長距離スピン構造体を観測した研究を紹介する。前者はパルス中性子源のチョッパー分光器を、後者は定常中性子源の粉末回折計と三軸分光器を用いておこなった。
「スピン分子」とは、1 nm 程度の分子のような形状を持つ磁気的な素励起のことである。我々は、スピン分子を、局在スピン系MgCr2O4、遍歴スピン系LiV2O4、局在と遍歴の挟間に位置づけられるLaCoO3において観測して来た [1-3]。最近では、スピン分子はトポロジカルチャージという新たな基礎概念で記述されること、異常なマクロ物性(断熱・防音機能)の生成源として熱制御の応用シーズになりうることも報告されている[4,5]。
「All-in all-out」とは、スピンが自らの属する正四面体の中心方向のみ、あるいは、その反対方向のみを向いた磁気構造のことである。例えば、Nd2Ir2O7等のパイロクロアについて、3次元トポロジカル Weyl 半金属ないしは近傍物質である証拠として理論的に提唱され、実験的にも温度や磁場誘起の金属絶縁体転移や磁気ドメイン導電現象を生み出す基礎構造を与える [6]。しかしながら、その中性子実験は、(1) Irの磁気モーメントが小さい (< 0.3 μB)、(2) 磁気伝播ベクトルが (0, 0, 0) である、(3) 二つの磁性元素からなるパイロクロアの磁気構造決定は相当数のパラメターを含む最適化問題になる、という困難が重なり、不可能だと思われていた。我々がこの問題をいかに解決したか、最新の数理情報科学と中性子実験の融合により、all-in all-out磁気構造の最終決定に至るまでをお話しする [7]。
最後に、今後の中性子研究の展望について述べる。
[1] KT et al., PRL 101, 177401 (2008); PRL 101, 177401 (2013). [2] KT et al., PRL 110, 077205 (2014). [3] KT et al., PRL 119, 196402 (2017); KT et al. (submitted). [4] T. Mizoguchi et al., PRL 119, 077207 (2017); arXiv:1806.08534. [5] T. Watanabe et al., PRB 86, 144413 (2012); H. Zhou et al., PRB 87, 174436 (2013). [6] D. Pesin et al., Nat. Phys. 6, 376 (2010); X. Wan et al., PRB 83, 205201 (2011); Y. Yamaji et al., PRX 4, 021035 (2014); K. Matsuhira et al., JPSJ 76, 043706 (2007); JPSJ 80, 094701 (2011); Z. Tian et al., Nat. Phys. 12, 134 (2015); H. T. Hirose et al., Sci. Rep. 7:42440 (2017). [7] KT et al., JPSJ 81, 034709 (2012); KT et al. (submitted) (特許出願手続き中, 山形大2017-081).


(公開日: 2018年08月16日)