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光誘起相転移における非平衡電子状態の観測と光による物性制御への可能性の探求

日程 : 2018年7月19日(木) 11:30 am - 12:30 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第一会議室 (A636) 講師 : 岡﨑 浩三 氏 所属 : 東京大学物性研究所

角度分解光電子分光(ARPES)は、物質中の電子構造を直接観測できる強力な実験手法であり、電子構造の精密測定から物性の発現機構を明らかにする事ができる。いわゆる非従来型超伝導体においては、高分解能ARPESを用いることでクーパー対形成に伴う超伝導ギャップを運動量空間における異方性も含めて観測できる事から、対形成機構の理解に大きな寄与を果たしてきた。講演者もこれまで極低温超高分解能レーザーARPES装置を用いてそのような報告をしてきている[1]。一方、フェルミ面の有無から金属か絶縁体かが判別できるように、超精密ARPESによって逆に電子構造から物性を予言する事も可能になると考えられる。一般に非平衡状態における物性を知る事は実験的に難しいが、超短パルスレーザーを用いた時間分解ARPESによって非平衡状態における電子構造を観測する事で、そこで発現し得る物性を予測できるようになる事も期待される。

近年、銅酸化物高温超伝導体やアルカリ金属をドープしたフラーレン光誘起超伝導という現象が注目を集めている[2]。本セミナーでは、変位励起型コヒーレントフォノンに伴う非平衡電子状態の観測[3]から鉄系超伝導体の母物質の1つであるBaFe2As2においても光誘起超伝導が実現する可能性があることを議論する。また、電子と正孔がクーロン相互作用によって束縛された状態である励起子が自発的に凝縮した系を励起子絶縁体と呼ぶが、その有力な候補物質であるTa2NiSe5における光誘起絶縁体-金属転移の観測結果を紹介し[4]、そのメカニズムにおいても、変位励起型コヒーレントフォノンが関係している可能性があることを議論する。さらに、光による物性制御実現の可能性など今後の展望についても議論したい。

 

 

[1] K. Okazaki et al., Science 337, 1314 (2012), Y. Ota, K. Okazaki et al., Phys. Rev. Lett. 118, 167002 (2017), T. Hashimoto, K. Okazaki et al., Nat. Commun. 9, 282 (2018)など

[2] M Mitrano et al., Nature 530, 461 (2016), S. Kaiser et al., Phys. Rev. B 89, 184516 (2014)など

[3] K. Okazaki et al., Phys. Rev. B 97, 121107(R) 2018

[4] K. Okazaki et al., submitted


(公開日: 2018年07月04日)