ISSP - The institute for Solid State Physics

Seminar
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[機能物性セミナー]
等方性の高移動度と高発光特性を有する単結晶有機半導体
日程 : 2017年8月10日(木) 15:00 〜 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 講師 後藤 修 氏 所属 : 北京大学深圳研究生院 世話人 : 森 初果 (ex.63444)
e-mail: hmori@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

高いキャリア移動度と高い発光特性を有する有機半導体材料は、高性能発光トランジスタや電流注入型有機半導体レーザの実現に不可欠となる。我々は、単結晶を用いた発光トランジスタ構造をベースに、有機半導体レーザの作製に取り組んでいる。高移動度と高発光特性を同時に満たす有機半導体材料は極めて珍しいが、アントラセンコアを持つ誘導体はこれらの特性を同時に満たす。問題は、単結晶成長では、大きさと膜厚を独立に制御することが極めて難しいことである。
2015年にWenping Hu教授のグループが2,6-diphenylanthracene (DPA)を合成した[1]。単結晶FETのホール移動度は34 cm2 V-1 s-1、かつ、高い発光特性を示した。しかしながら、この材料では大きく薄い単結晶を成長することができない。我々は、フェニル基にアルキル基や、Oを介したアルキル基を付加し側鎖に用いた誘導体を合成し[2]、単結晶成長条件と単結晶FETの特性を調べた[3, 4]。
単結晶成長装置は通常、原料を昇華させる領域と結晶を析出させる領域の2つの加熱領域を持つ。今回は、結晶成長のメカニズムを理解するために、成長領域が2つある合計3つの加熱領域を持つ成長装置を用い、核形成と成長を制御するための「飽和-過飽和曲線」を実験的に得た。2,6-bis[4-ethylphenyl]anthracene (BEPAnt)では、成長温度を210 ℃から250℃に変えることで、直径0.1 mm, 膜厚400 nmから、直径1.0 mm, 膜厚50 nmまで形状を制御できた。大きく薄い単結晶を用い、放射型のソース・ドレイン電極を用いたFETを作製、ホール移動度の角度依存性を調べ、二次元面内で等方的なホール移動度(7.2 cm2 V-1 s-1)を得た。2,6-bis(4-methoxyphenyl)anthracene (BOPAnt)でも同様の実験結果が得られ、等方的なホール移動度は16.6 cm2 V-1 s-1に達した。このような単結晶では、デバイス作製の際に電極の形成方向を考慮する必要がないため、デバイス作製上大きな利点となる。なぜ等方的な移動度が得られるのかを調べるために、ホッピング移動度の計算を行った。これらの材料では、2次元面内でP, T1,およびT2方向の移動度に特徴があり、T1とT2が同じ値になる一方、P方向の移動度がT1(T2)に対して無視できるほど小さくなる。私がZhenan Bao教授の研究室で扱った2,7-di-tert-buty[1]benzothieno[3,2-b]benzothiophene (ditBu-BTBT)もまた等方的な高移動度を示す材料であるが[5]、この材料ではP, T1,およびT2方向の移動度はほぼ等しかった。こうした知見は、材料設計上の重要な指針となると考えられる。今後、これら2つの有機半導体単結晶のレーザ材料としての特性を調べつつ、デバイス作製プロセスを構築して行く。

[1] J. Liu, H. T. Zhang, H. L. Dong, L. Q. Meng, L. F. Jiang, L. Jiang, Y. Wang, J. S. Yu, Y. M. Sun, W. P. Hu, A. J. Heeger, Nat. Commun. 2015, 6.
[2] L. J. Yan, Y. Zhao, H. T. Yu, X. Hu, Y. W. He, A. Y. Li, O. Goto, C. Y. Yan, T. Chen, R. F. Chen, Y. L. Loo, D. F. Perepichka, H. Meng, W. Huang, J. Mater. Chem. C 2016, 4, 3517-3522.
[3] A. Li, L. Yan, C. He, Y. Zhu, D. Zhang, I. Murtaza, H. Meng, O. Goto, J. Mater. Chem. C 2017, 5, 370-375.
[4] C. He, A. Li, L. Yan, D. Zhang, Y. Zhu, H. Chen, H. Meng, and O. Goto, to be submitted.
[5] G. Schweicher, V. Lemaur, C. Niebel, C. Ruzie, Y. Diao, O. Goto, W. Y. Lee, Y. Kim, J. B. Arlin, J. Karpinska, A. R. Kennedy, S. R. Parkin, Y. Olivier, S. C. B. Mannsfeld, J. Cornil, Y. H. Geerts, Z. Bao, Adv. Mater. 2015, 27, 3066-3072.


(公開日: 2017年07月19日)